もうずっときみに恋してる 「陽介…。」 熱っぽい声で囁かれ、うぉっと仰け反る。 深夜に程近い時間だけれど、日中晴れていたのだからマヨナカテレビは写りそうもない。なので、遊びに行った鳴上の部屋でのんびりと本を捲っていた。 部屋の持ち主と言えば、商店街で貰ったらしいプラモ作りに熱中している。 器用なアイツらしく、細かな部品を切り分け組み立てていく作業も実に繊細で、ずっと見ていて飽きない。 まあ、飽きないのは俺が鳴上に惚れているせいかもしれない。ほのかに感じていた恋心は、ついこの間成就した。 ひょっとしたら、という期待がなかった訳ではないけれど、男相手に(好きだ)という言葉を告げるのは相当勇気がいった。 誰もいない学校の屋上でふたりきりになった時、告げようとずっと様子を伺う。 のほほんとした太陽の下。ほや〜んとした空気が漂う時に、好機はやってきて、俺は高鳴る心臓を抑えつけた。好戦的かもしれないけれど、シャドウと戦う時に似た緊張感と期待がミックスした高揚感。 なのに、アイツは会話の続きであるかのように、(好きだよ)とさらりと呟く。 出鼻を思い切りよく挫かれたけれど、勢いのままにうん俺もと頷けば、鳴上は唇を綻ばせて(両思いだな)と笑った。 そんなこんなで、只今青春のお付き合い真っ直中。 なのだが、ゆるく始まったお付き合いのせいか、相棒と呼びずっと親しい友人関係を続けていたせいなのか、自宅デートをしても、学校で密会してもぐっと親密になったような気はしなかった。 それでも、好きな相手と一緒にいるだけで、幸せな気分だ。互いに違う事をしていたって、すぐ側にいるだけで楽しい。 問題は、今までだって、そうだったという事実だけかもしれない。 「…え、鳴上…?」 「あ、ごめん。斜め上の角度が。」 「斜め上の角度?」 ソファーに仰向けで、鳴上を腹にのせたまま俺は斜め上を見る。 …天井が見える、けど? 「あ、そういう意味じゃなくて。」 「へ?」 うんしょと首を戻すと、鳴上の顔が目の前にあった。 「ここ。」 言い終わるか、終わらないうちにぺろりと首筋を舐め上げられた。 「うぉほ!?」 ジャックフロストみたいな叫び声を上げてしまい、鳴上に唇をしーっとされる。 「菜々子が起きる。」 お前がやったんじゃないか、と抗議の声を上げようとして慌てて口を手で抑えた。 そうそうマヨナカでした。すみません。塞いだ唇からモガモガと文句を言うと、鳴上目元を緩くした。 (何だよ?) (本読んでる花村の首筋にムラムラした。) (なっ、ちょ、オマエ…。) (なんていうか、こう線がさ、身動きするたびにムラムラしてたんだけど、10回溜まったんで舐めたくなった。) (俺はジュネスのポイントカードか!!)…ツッコミも含めて全て小声です。 ふふっと笑い、(花村が景品なら頑張って溜めるんだけどな。)なんて鳴上が言うから、睨み上げて(俺は一点ものだから、売らない)と言ってやる。 「…でも、花村が欲しい。」 俺の瞳の色も淡いけど、鳴上のはそうじゃなくて色素が薄い感じだ。光に透けると銀色にも見える不思議な色で、じっと見つめられると落ち着かない。 機械の測定器にも似た硬質な色は、自分の全てを見つめられているような気分になるからかもしれない。 「…という訳で、「ちょっと、待て!!」」 俺のシャツの釦を外し、シャツを捲り上げた所で(勿論マウントポジション続行中)鳴上は本を取り出した。それも(漢)シリーズとか有り得ないだろ!? 「何やってる。」 「うん、まだそんなにスキル高くないから。大丈夫、頑張るから。」 「大丈夫じゃねえ!…ってか、オマエが上なの?」 「不満なのか?」 「不満じゃないけど、いまは不安だ。」 「上手いな…座布団一枚。」 頭を抱えたくなるような展開になったので、ひとまず頭突きを噛ましておく。 いや、俺にもダメージがでかい。この石頭。 ぐわんぐわん言ってる頭を抑えつつ、一応伝えるべきことを伝えなければ。 「俺が入れられる方にしたって、今は駄目だぜ。腸内を洗浄しておかないと詰まってんだろ、ナニが。」 ギョッとした顔でぺらぺら頁を捲った鳴上は眉間に皺を寄せていた。 まさかコイツ、(アイドルは便所いかない)っていうタイプの人間かよと一瞬疑うが、ただの杞憂だった。 (考えてみればりせちーにそんな態度してるの見たこともない。) 「…そうなのか、本には書いてない。花村は耳年増なんだな。」 「褒められてるのか、けなされてるのかよくわかんね〜。どうぜ俺は綺麗な身体ですよ。」 「うん、ご馳走様。」 「オイ!」 結局、普段通りにジタバタ転げ回ってふざけ合う。 そうしていると、ふいに襖が開いた。音にギョッとして固まった自分達を、眉を寄せた菜々子ちゃんが見つめていた。 眠そうに目を擦っているにも係わらず、必死な様子の菜々子ちゃんに、鳴上はどうした?と声を掛けた。 「おにいちゃん、ヨウスケおにいちゃんと喧嘩してるの?」 「え?」 思わず鳴上と顔を見合わせてしまう。 「だって、音してるし、大声聞こえてきて…。」 「菜々子。」 今にも泣きだしそうな菜々子ちゃんに、鳴上はにこりと笑う。 「起こしてしまってごめん。おにいちゃんは陽介とふざけて遊んでいただけなんだ。」 な、と目配せをしてくる鳴上の横に並んで小さな頭にそっと手を置いた。 クシャリと柔らかな髪を撫で上げる。 「俺は鳴上の事が大好きだぜ?」 片目を眇めてみせれば、菜々子ちゃんも(わたしも大好き)と笑った。 彼女を寝かしつけてくるからと階段を降りていく相棒の背中を眺め、心の中で追加する。 好きで好きで、時々身体の中から好きが飛び出して、見えちまんじゃないかと心配する位に好きなんだ。 いつからなんて忘れてしまったけれど、もうずっときみに恋してる。 content/ |