愛しさのその先に ロディ×セシリア ※ジェーンファンの方は覗かない方がよろしいかも…(汗) 最初は大切な仲間だった。 そのうちに、仲間って言う感情だけで片付けられない気持ちを見つけた。 それでも、最初は『好き』だった。でも、どうやらそれは『愛しい』らしいと気付いたけれど、この愛しいと思う気持ちは、好きがそれになっていったように、次は何処へ向かうというのだろうか。 「焼きそばじゃねえのか!?」 ケーキを前にして、ザックの第一声はそれだった。 ぷうっとセシリアのふっくらとした頬が風船のように膨れると、ザックの前に切り置かれたショートケーキを皿ごと持ち上げた。 「そんな失礼な事を仰る方には差し上げません。」 「わ、悪かったよ。姫さんがつくるって言うから、てっきり焼きそばだと。」 「お茶の時間に、焼きそばは作りません!」 通常は静かなアーデルハイド城も、姫君と愉快な仲間達の帰城で一気に活気づいていた。大騒ぎをするザックの横で物事というものを熟知しているカゼネズミは、もくもくとケーキを頬袋に詰めている。髭についている生クリームがキュートだ。 その隣でジェーンが、ケーキを一切れ放り込んだ。 「美味しい。ちょっと意外ねぇ。」 これまた失礼な台詞だったが、他人を褒めると言うことを快しとしない彼女から出た『美味しい』の言葉で、セシリアは満足そうに微笑んだ。 ジェーンは、そのままケーキを口に運びながら、空いた席に目をやった。 「ロディはどうしたの?」 「さあ。」 セシリアはクスクスっと笑ってこう付け加えた。 「部屋にはいらっしゃらないみたいでしたよ。お腹がすいたら戻ってこられたりして…。」 ははは、とザックが笑う。「子犬か子猫みていだな。」 「心配じゃない?」 何処か、冷ややかなジェーンの言葉に、セシリアは笑顔を見せた。 「ロディなら大丈夫ですよ。あ、もうひとつケーキがあるんで持ってきますね。それと、お茶のお代わりもいりますよね。」 イチゴのケーキを1ホール持って来たときと同じように、慌てて部屋を出ていくセシリアにザックが声を掛ける。 「姫さん慌ててると、転ぶぞ!」 大丈夫です…ときた次に鈍い衝撃音がして、ザックは苦笑いを浮かべる。ジェーンは、その様子を黙ってみていたが、突然ケラケラと笑い出す。怪訝そうなザックの顔が自分の方を向いた時にポツリと呟いた。 「私は、ロディのパートナーは無理ね。」 ジェーンの悪戯な笑顔にザックは目を剥いた。そんな言葉がよもやこの守銭奴から出てくるとは思ってもみなかった。 彼女がロディを好きな事は知っていたし、欲しいものがあれば、相手を蹴り倒してでも手に入れる。そんなイメージを彼女に抱いていたと言ったら、早撃ちで眉間に穴が空くだろうか。 それでも、ザックの口は止まらない。 「な、何急に言い出すんだ!?わるいもんでも喰ったのか!?」 それは正に、セシリアの作ったケーキが悪い物だったと言っているようなものだったが、驚愕を通り越し、脅えの入ったいい年の男はそれに気付かない。 ジェーンは冷ややかに言葉を返した。 「…私は、ごく正常な人間だと思うのよね。」 綺麗な巻き毛に指を絡めて、ジェーンは唇を吊り上げる。 ソバカスが顔に残る少女は、その大胆な行動にくらべると普通は随分幼く見える。苦労を重ねた分だけ、感受性という感覚を現実感で覆い隠しているものの、やはり年相応の女の子…そうザックには思えた。 しかし、今この話をしている彼女ははっきり言って大人だ。 「じゃあ、姫さんは異常だとでも?」 「異常よ。」 即座に返ってくる答えは、自信に満ちたものだった。 「あのロディよ? お人好しが服を着て歩いたあげくに、瀕死の禿げ鷲にだって同情しかねない人間よ?反対に自分が餌としてつつかれるかもしれないなんて、あの蒼い頭の中には全く浮かんでこないわよ。 今だって、何をしてるかわかったもんじゃないわ。」 言い方は乱暴ではあったが、ザックにはジェーンのいわんとする事がなんとなく理解出来た。側で見ていても、ロディは危なっかしい。 実力が無いという類の話では無く、常人の理解を超えている。ロディは、お人好しに所謂『馬鹿』がつく類の男なのだ。余計なもめ事に首を突っ込むのが、彼のライフワークなのか?と問い掛けたくなる事も度々だ。 「それでこう考えてみるわ。私の一番が彼。とすると、何処で何をしているのか、心配で心配で気になって、いつでも彼の事だけ考えちゃうわよ。 家に戻って来たら、私はどんなに待っていた間が不安だったかを延々のべそうね。」 「んじゃあ、ずーっと一緒にいたらいいじゃねえか。」 「あんた、馬鹿?」 男と女を比べると、いつでも女の方が大人であるという理論があるが、今のジェーンとザックはそれにぴったりと当てはまる。 「それじゃあ、私が私じゃなくなっちゃうでしょ?その上、家にいて、ぐちぐち考え込んでる自分なんて最悪よ。」 いつでも、たった一人の事だけを思いその事だけを思って生きていく事。それが自分に会うか合わないか。ジェーンはわかっているのだろう。 「だからね。あんなぼんやりうっかり天然なロディには、薄らぼんやりしたセシリアがお似合いねとか思うわけよ。常識人には太刀打ちできないわよ。謹んで、お譲りするわ。」 「そりゃあ、いいや。」 カラカラっと、ザックが笑うとジェーンも満足したような笑みを浮かべた。 随分と失礼な言い草ではあったが、扉の影から聞いていたロディは、出るに出られず口元を抑えたまま固まっていた。 彼等が言っていたとおり、街にARMの点検に出掛けたにも係わらず、煙突掃除までして帰ってきたと聞けば、ザックもジェーンも呆れると共に怒り出すに違いない。 お人好しが過ぎると、何度注意されてもうっかりしてしまう自分は、ジェーンの言う天然に間違いないと感じた。 そうなのかもしれない。…脳裏に浮かんだひとつの答え。 何故、セシリアが特別だと思ってしまう理由が、彼等の話でわかってしまった気がしたからだ。 ジェーンを助けようとして、柱に潰されそうになった事があった。あの時はザックに助けられ事なきを得たが、ジェーンには馬鹿にするなと怒られた。 心配してくれた故の怒り。それは自分にも理解出来た。でも、頭は何も考えず、身体が動いてしまうのだから仕方がない。 もしそこで、自分を待っている人がいるのだからと、目の前の惨事を見過ごしてしまうようになったら、それこそジェーンの告げる通り『自分が自分でなくなってしまう』のだろう。 そんな自分を、セシリアは、当たり前のように迎えてくれると思えた。 これは、自分の勝手な想像だ、注釈を付けながら考える。 彼女の待つ家に戻ったとする。きっとセシリアは少しだけ驚いた顔をしてから、笑うだろう。 「お帰りなさい。ロディ、あの、いきなりなんですけど、聞いて頂けますか?昨日ザックとエルミナさんがいらっしゃって…。」 なんて、こっちの話も聞かずに、一人でいた間の事を熱心に語ってくれる気がする。一人じゃないかもしれない。子供とかの話も、矢継ぎ早に出てきたりして。 こっちがどんなに無謀な事をして帰ってきたとしても、彼女は変わらないような気がした。それ自体が非常に良いことではないかもしれないけど…と苦笑いを浮かべる。 「…?!」 自分の想像が、ある形を伴っている事に気付き、ロディが慌てた。 「これって…?」 自分は一体何を考えている? 真っ赤になって立ち竦んでいるロディを、セシリアが見つけた。彼女は、手にしていたティーセットをサイドに置き、声を掛ける。 「どうなさったんですか?」 「あ、あの。」 振り返ったロディの目に映るのは、白いエプロンを身に纏い、笑みを浮かべながら自分を見る彼女の姿。まさに先程の想像の延長線。柔らかな笑みもそのものだ。 「顔、紅いです?熱でもあるのですか?」 「…そんな事ないよ。平気だ。」 「お洋服も煤だらけですね。ほら、私の作ったケーキみたい。」 セシリアが見せたのは『ガトーショコラ』真っ黒な外見は、確かに自分に似ているだろう。でも、私の自信作で美味しいんですよ。ひそひそっとロディに話し掛けるとセシリアはひらりとエプロンを翻して、パタパタと少し危なげに立ち去っていく。 一度だけ振り返って笑顔を見せた。 「帰っていらっしゃって良かったですわ。早くいらして下さいね。」 セシリアを見送って、わかった事実がもうひとつ。 愛しさのその先には、まだまだ未知の世界が広がっているらしい。 〜Fin
ロディ×ジェーンの方には怒られそうな内容です(汗)。 ジェーンちゃんは、本当はとても繊細な娘に見えるのでロディのような命知らずの彼女やってると大変そう。その点お互いがボケ同士だと、緩和しあっていいかな…という話でした。←これでもロデセシ好き。 ロディが押しが弱そうなんで、先にはなかなか進めないでしょうね。 content |