七夕[WAF]


 それは一年に一度だけ会うことを許された恋人が出会う日…の次の日の事。

 前日に降った大雨のせいか、晴れ渡った日のその夜は格別に星が美しかった。
彼女の目には写らないかもしれないけれど、その感動を伝えたくて、彼−ゼットーは、スキップの足も軽やかにアウラの元に向かった。

「まぁ。ゼットさん。」
「…アウラちゃんどうかしたのか?」
 彼女の驚きようが、いつもと違っていてゼットは目をシバシバさせる。
その問いかけに、アウラ自身も思うところがあったようで口元を両手で押さえてクスリと笑った。
「いいえ、来て頂けて嬉しいです。座って下さい。お茶入れますね。」
 ゼットは子犬のようにコクリと頷いてストンと椅子に腰掛ける。
 そのテーブルの上のコップに、妙に細い葉っぱのついた、これまた細い茎の植物が置いてある。おまけにその葉といわず、茎と言わず紙で作った飾りがちりばめてあった。
「?」
 ゼットはそれを手に取ると、しばらく眺めていたが大きく手を振り上げもう片方の手でポンという音を立てた。
「これは、噂に聞くクリスマスツリー!白いロマンスが生まれる代物だな!」
「違いますよ。」
 カップを手にしたアウラが、笑いながらゼットを見ていた。
「それは、笹飾りと言って七夕を祝うものなんです。」
「たなばた?」
 片手にもったそれを左右に振りながらゼットは不思議そうにそれを眺める。
「昨日は、七夕の日だったので、ロディさん達がそれを作ってきてくださったんです。そこに下がっている四角に紙に願い事を書くと叶えられるって言われてるんです。」
「なにぃ〜あいつらそんな他力本願な素晴らしい行事から俺様を仲間はずれにしやがって〜〜〜!!俺様の才能に妬んで、嫉んでいるのだなっつ!」
 とんでもない事をのたまいつつ、その紙を見ると
『ファルガイアが平和でありますように』
『ザックの莫迦が直りますように』
『みんなが元気で旅が出来ますように』
『旨いもんがたらふく食べれるように』
 世界平和から、実現不可能な願いまでそれぞれの思いが綴ってあった。しかし、ゼットは首を傾げる。
「アウラちゃんは願わないのか?」
「セシリアさんに書いてはいただいたんですが、叶いませんでしたから…。」
 寂しそうに微笑んだアウラに、ゼットの心拍数は天まで上がる。思わずテーブルを両手で叩いて立ち上がっていた。
「お、俺様が絶対叶えてみせる!!アウラちゃん!俺様が…!!」
「昨日は晴れますようにってお願いしたんです。」
「へ…?????」
「七夕って、その日にしか出会えない恋人を祝うお祭りなんですよ。雨が降ったらそれも出来ないなんて、可哀想じゃないですか? だから私、晴れて欲しいなって思ってたんです。」
 あまりのゼットの勢いに少しだけ驚いてアウラはそう答えた。
「それは、今日では駄目なのか?今満天の星が出ていてアウラちゃんに伝えようと思って俺様はやってきたんだ。空には、黒いマントが虫に食われ放題になっているように星がある!」
「そうですね。一日遅れでも会えるといいですね。私は会えましたから。」
 必死に力説しているゼットにそう言って微笑むとアウラは言葉を続ける。
「私、昨日晴れていたらゼットさんが来て下さるような気がしていたんです。だから残念だなぁって思っていたのに、晴れたら本当にゼットさんがいらっしゃるんですもの。」
 クスクスとアウラは笑ってから、ペコリと可愛らしくお辞儀をする。
「私のお願い叶っちゃいました。ありがとうゼットさん。」
「アウラちゃん!!」
 感激のあまり抱きついてしまったゼットに顔を赤らめながら、アウラは幸せそうに微笑んだ。

 一年に一度だけ、出会える恋人達。そんな理はないのかもしれないけれど。たとえ一日遅れても、出会える幸せはかわらない。


〜fin



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