feel [リク]


「ARMの手入れをしてくるから。」

 そう言って、木影に場所を移したロディはいつまで待っても帰ってこない。心配になって来てみると、彼は木の幹に身体を預けて眠っていた。あまり気持ち良さそうに眠っているので、起こしてしまうのも戸惑われてセシリアは隣に腰掛ける。

『しばらく待ってから起こしてあげましょう。』

そんな事を思って、ロディの横に腰掛ける。しかし、そうやって座ってしまうと、ぽかぽかした陽ざしは確かに気持ち良く、セシリアにも眠気が襲ってきた。
『いけませんわ。これでは、何をしに参ったのかわかりません。』
 セシリアは、慌ててロディを起こそうと肩に手を置く。
 軽くゆすっても彼は起きる気配がない。
『彼にしては珍しい』
 そう思ってセシリアはそっと彼の横顔を見た。穏やかな表情で眠っている
。規則正しい呼吸と寝顔に安堵を覚え、その感情がまだ包帯がまかれたままのロディの腕からくる事を感じた。

 もう痛みは無いと言っていたけれど。しかしそれは、身体のもの。心に痛みは消え去ってなどいないのだろう。
 もしも自分が人間ではなかったら、その衝撃を、受け止めることが出来たのだろうかと考えると、彼の強さに胸を打たれる。

 けれど、知っている。
 とセシリアは思う。弱い心を持たない者などいない。
ロディはこの頃人にふれる事を避けている。人ではない自分が、人に触れることの躊躇なのか、兵器である自分への戸惑いなのか…。

「そんな事はない。」
…と声に出して伝えてしまうと、彼はもっと心に秘めてしまいそうで今は言えないけれど、自分はARM使いの彼ではなく、渡り鳥の彼だけでもなく、人ではないという事実も含めて、全ての彼を見つめているのだという事を。
「貴方が公女ではない私を見て頂いているように、私もロディをずっと見ています。」
セシリアは、ロディの肩に自分の頭を寄せてそっと目を閉じた。

「二人で寝ちまってて、困ったお姫さんだな。」
 ザックの声に、ロディは瞼を開けた。
 なんだか左肩が重くてそちらを見るとサラリとした金髪が頬にかかる。ロディの瞳がふっと細められた。セシリアが、自分の肩に頭を預けて眠っている。そして、彼女の両手は自分の左手の上に重ねられている。
ロディが手を伸ばし金の髪に触れるとくすぐったそうに、身じろいだ。
「ん…ロディ…」
 彼女の唇をから洩れる自分の名前に、心臓が鳴る。
「おーおー安心しきっちゃって…。」
 ザックの揶揄の言葉にロディも頬を染めた。
「ごめんザック迷惑かけちゃった?」
「いや、お前もそうとう疲れてたみたいだったから、姫さんも起こしづらかったんだろうさ。今夜はここで野宿すりゃいい。昼寝したなら、夜の見張りは頼んだぜ。」
 ザックはそういうと、場を離れる。
「悪い…。」
 ロディはそのうしろ姿に苦笑いをする。
 自分の自虐的な思いが全て集約したような、その手にそっと置かれた彼女の手はまるで自分を守ろうとしてくれているようで。

「君がいるから、俺は弱くなれない…。」
ロディは、そう言うと微笑んだ。


〜fin



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