二つの想い 伝えよう やめよう 同じ心にある二つの想いは、相容れる事がなく。それでも一つの心が生み出すもの。 二人きりの夜。側にザックもハンペンもいるのだけれど、焚き火に枯木をくべながらロディはちらとセシリアを見た。ゆらゆらと炎に照らされて、セリシアの綺麗な金色の髪が揺れる。 何をするでもなく、炎を見つめて考え事をしている彼女を盗み見している自分に気が付くと、何故か罪悪感を感じた。それなのに、また引き寄せられるように見つめてしまう。 焔にゆれる横顔は、昼にせる彼女の顔とは何処か違っていて、ロディの瞳を捕らえてしまう。 白い肌が、淡い色の唇が赤い炎に揺れる。 綺麗だ。と素直に思う。 紋章魔法を使うときの引き締まった表情も、自分を見るときのやさしい笑顔も全部同じセシリアで。 でも、今とは違って見えた。 頬が熱くなり、ロディは思わず顔を背けた。パチッと枯木が弾ける音だけが辺りに響く。 それ以外音の無い空間は、酷く気まずくて、けれど離れ難くて。 「ロディ…。静かですね。」 ふいにセシリアが話しかけた。 「うん。そうだね。セシリアも眠ったらいいよ。歩きづめで疲れているだろう。」 「…なんだか、色々考えてしまって…。」 膝を立てて座っているセシリアが、両腕をその上に置き顔を埋めた。サラリと絹の髪が前に流れ、白いうなじから肩へと続くラインがロディの目に写る。ファルガイアの命運を背負って戦った彼女の肩はとても細く華奢で。ロディはその手をセシリアの肩に伸ばした。 抱き寄せるわけでもなくその手はそっとセシリアの肩に置かれる。 「ロディ?」 肩にロディの手が添えられ、セシリアは顔を上げた。 「ごめん…なんだかセシリアが泣いてるような気がして…。」 セシリアが、澄んだ翠の瞳を大きく見開いた。そして、クスリと笑う。 「皆さんがいてくださるのに、私は一人で泣いたりなんていたしません。それに、ロディの方がなんだか泣きそうな顔をなさってます。」 ふいにセシリアの顔がロディに近付く。今度はロディの瞳が見開かれた。 「ロディがこうして心配してくださるのに、泣いたりいたしません。それはぜったいに、ぜったいです。」 「セシリア…。」 「ただ、貴方との距離を考えていました。…でも、こんなに近いのですね。」 それは合図のように、二人の唇は重なりそして離れた。 紡がれた言葉は、夜空にすいこまれて二人以外には聞こえない。 肩に置かれた手はそのままで。 放さないとザックやハンペンに見られてしまう。 でも、放したくない。 結局自分は、二つの想いを抱いたまま。これからずっとそうなのかもしれない。 〜fin
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