talkative[WA1orF]


talkative(おしゃべりな)

 ガルウィングのコクピット。
ロディは座席の下に何か落ちているのに気がついた。
拾い上げてみると、丁度手のひらに乗るほどの大きさの手帳。
 しかし、それを持つロディの手は震えた。

 紫色の表紙に黄色いステッチが入っている。
その上、ピンクやら黄緑やらの星が大小豊にところ狭しと散りばめてあった。

 どこぞで見た虫型のモンスターの配色にも似た、お世辞にも趣味がいいとは思えないそれに思わず呻く。
「手が毒になりそうな…色…。」
 それでも持ち主を特定しようと表紙をあちこち眺めて見た。記名は無い。 「仕方ないないか…。」
 人の手帳の中身を見るのはマナー違反だよな。と思いつつ、メンバーの前でひらひらさせてしまえば、興味深々でジェーンやエマ博士がまわし読みをする可能性だってあるのだ。

 でも、ジェーンやセシリアのものだったら嫌かもしれない。

 ロディは、最初の数ページをパラパラと捲って見る。以外と几帳面な字でびっしりと書き込んである。
「え…と?」
 アーデルハイド城の衛兵がインフルエンザになって、三週間休んだ。

「…。」  ベリーケイブのトニーの家で子犬が産まれた。白と黒とぶち。三匹。

ミラーマの酒場でザックが…。
「これ、ひょっとすると日記なのかな?」
 結局、持ち主を特定する事が出来ずに手帳を閉じたロディの背後から、陽気な(妖気な?)気配がする。
「ボーイ!お前の手にするそれは、お茶の間アイドルゼット様の懐にひっそりとしまわれていた手帳!それを手にした君は超ラッキーだ!!俺様の感謝の言葉を聞く事が出来る!!」
「………これ、ゼットのものなの?」
 ある意味納得のそれをゼットに渡し、ロディはそう尋ねた。ゼットは表紙をロディの前に翳して自慢げにこういう。
「この数ある★が俺様の証さ!ナイスなチョイスだろう?」
「…。」
 そのまま、スキップして出ていくゼットにお前ほんとに魔族かよ。とロディは頭を垂れた。
 そして数日後、セシリアの提案でセントセントールに行くことになった。
「アウラちゃんに会いに行くのか?」
 遠足前の幼稚園児のようにゼットはガルウィングの座席から身を乗り出した。
「はい、彼女にも差し入れを持っていってあげたいですものね。」
「うんうん。」
 大きく頭を振り、早く行こうと急かす。
「待ってください。色々準備がありますから。」
 そうたしなめられて、黙っているゼットではない。いきなりハッチを開けると、飛び出す。(当然空の上です。)
「俺様先に走って行ってくるから!」
「馬鹿かお前は!!此処から何千キロあると思ってんだ!!!!っていうか、飛び降りるんじゃねぇぇぇぇ!!」
 ザックの叫びは彼には届かず、ゼットの姿は見えなくなっていた。

「おい、ホントに着いてやがる。」
アウラの住んでいる家の前でザックは呆れたように呟いた。
「これは失われた太古の技術『何処でもドア』を魔族が駆使しているという事かしらね。」
「何よ。それ。」
「ロストテクノジーの一つで、青い猫型ロボットが…。」
 勝手に盛り上がっている三人を置いて、扉を叩こうとしたロディに中の会話が聞こえてきた。
「この間アーデルハイド城の衛兵の一人がインフルエンザになって…。」
「まあ、それはなんですか?」
「たちの悪い風邪だそうだ。アウラちゃんは、体に気をつけてそんなものを寄せ付けてはいけないぞ。」
「はい。」
「それでな…。」
 ゼットは、あの手帳に書いてあった事を面白おかしくアウラに語って聞かせていた。アウラの楽しそうな笑い声がロディの耳にも届く。

ああ。とロディは納得する。あれはゼットのねた帳なのだ。
一人のアウラが寂しくならないように、飽きないように、そして折角の時間に 会話が途切れないように。
 そうして、彼は一生懸命喋っているのだ。
 季節の話、犬の話、メンバーの話。
 いきつもどりつ気合いを込めて彼女の為に頑張っているのだ。
 ロディはクスリと笑った。
「どうかなさいましたか?」
「いや、なんだか会話が弾んでいるようだから、今は邪魔しない方がいいかと思ってさ。」
 少しの時間耳を傾けてからセシリアも笑った。
「そうですわね。」
「そう言えば、ベリーケイブで子犬が産まれたんだって、今から一緒に見に行ってみないか?」
「喜んで、でもよくご存知ですね。」
「ちょっとね。」
 少しの間、君達の邪魔をしないように…。ロディはそう思って戸口を振り返る。
 その為に使うんだから、ちょっとネタを貸してもらうね。

「ロディ?」
「饒舌なのも悪くないかも…?」  そう言ったロディにセシリアは目を大きく見開いて、そして笑う。
「ロディが…ですか?」

 軽やかなアウラの笑い声。ゼットの努力は報われているようだ
〜fin



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