side[WA1orF] 『鈍い男は罪である。なんて、何処かの詩人が言っていたかしら。』 アーデルハイド城の自室でセシリアは溜息をついた。 特別な用事で渡り鳥の仕事を切上げアーデルハイドに戻って来た。三人は今はバラバラに過ごしている。セシリアは城で仕事。ザックは街で買い物。そしてロディは…。 「今日はマリエルの処へ行くって…。」 わざわざ報告に来るのが彼の生真面目さではあるのだけれど、それはそれで…とセシリアは思う。昨日はジェーンと出掛けている。明日は、盲目の少女の所に行くらしい。 行くらしい…『なんだか憎らしいに似てる』とんでも無いことを思いセシリアの形良い眉はハの字になった。机に頬をつきその手に顎を乗せた。俯いたまま呟く。 「馬鹿みたいだわ。私…。」 好きなのだ。と告げた覚えは無い。『大切な仲間だ。』と言ってもらった覚えがあるだけ。 「でも、自覚の無いロディも悪いんですわ。」 彼は、優しく強い。こんなにも人の心を捕らえてしまうのに本人にとってはその行為はごく普通で特別ではないから彼に自覚は無い。…そして、そこがまた良い。 サラリとした藍みがかった黒髪も、深い色を湛える紅い瞳も…全てが。 「好き…です。」 「それは良かった。」 「え!?」 ハッと顔を上げたセシリアの前には笑顔のロディ。両手一杯に白い花を抱えている。 「マリエルがセシリアにって。机に齧りついているのは大変だろうからって言ってたよ。これで気が紛れる?」 ブツブツと仕事に文句を言っている。ロディの勘違いにセシリアは胸を撫で下す。 「素敵です。いい香り…。」 「そうだね。それにセシリアも笑顔になったし。頑張って仕事片づけてくれよ。セシリアがいないと旅が始められない。じゃ、邪魔しちゃったね。」 片手を上げてロディは部屋を出ていく。セシリアは机に散乱した書類を丁寧にまとめると仕事を開始した。 今はまだ、大切な旅の仲間だけれどロディの横で旅をする権利を誰にも渡したく無いのだ。勝気な少女にも、花を愛する彼女にも。一刻も早くロディの横に、セシリアはそれだけを思った。 「好きです…かぁ。」 セシリアに言われるとドキドキするなぁとロディが呟いたのはまた別のお話し。 〜fin
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