腕の中


「そんなしけた顔すんなや。ただでさえ、面白ろい顔がますます面白ろくなるで。」
 ウインクをするつもりだったのか、平次は不器用に顔を歪める。
「もともとこんな顔や。」
 悪態をつきながら、どんどん目の前が霞んでいくのがわかる。
「何ほえとんのや。こんなんかすり傷や言うとるやろ」
 苦痛に顔を顰めならが、それでも平次は笑う。


『なに笑ろとんねん。冷や汗でとるのに無理して笑うな。阿保、莫迦、ボケ!』

 心の中ではなんぼでも罵ってるのに、もう言葉にはならへんかった。
 だって、平次の顔色は真っ青で、刺された箇所は血で真っ赤になっていて、応急処置をしてくれはる人も命には別状ありません。…て言うてくれはったけど。
 うちは、平次の頭を膝に乗せたまま、動けへんようになってしまう。

 気持ちだけが溢れそうになる。
 いっつも危険に飛び込むような事ばっかりしよるからこないな目に合うねん。とか
 刃物を持った犯人の前に飛び込むやなんて、なんでアホな真似ができるん!?。とか

 こないに、うちに心配ばっかけるんなら小さな子供みたいにぎゅうっと腕の中に抱き締めて、絶対に離さへん。

〜Fin



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