傘の中のふたり


 「あ〜もうあかん〜!」
 頭の上に鞄を乗せて、あわてて近くの屋根の下に逃げ込んだ。
 和葉は、濡れたスカートを手で払いながら溜息を付く。
「もう、靴の中までびちゃびちゃやん。」
 和葉は靴を脱ぐと、雨水をたっぷりと含んだ靴下を脱ぐと、しゃがみこんだ。
「あ〜気色ワル。」
 力を入れると水を滲ませる靴の感触に和葉の眉は歪められる。
「何しとんのや、お前?」
「あ、平次…。」
 少しだけ不機嫌そうな顔でその声の主を見る。平次も意地悪そうに目を細めた。
「お前、傘持っていかへんかったんか?あれだけ俺が、降るゆうたやろ?」
 朝あんなにいい天気やったから、『かつがれる』思たんよ。ボソリと呟いた和葉の言葉にさも呆れたように平次は返す。
「阿保。だ〜れがお前みたいな単純な奴かつぐか。」
「なんやて!」
 ムッとして、立ち上がった和葉の上に平次の傘がさしかけられる。
 和葉は一瞬あっけにとられる。
「ええの?」
「何勘違いしとんのや。そないな濡れネズミ此処においといたら世間様に迷惑やろ?」
 少しだけ頬を染めて平次は答える。
「ま、平次がそこまで言うなら入ったってもええよ。」
「誰がそんな事言うたか!?」
 仲良く肩を寄せ合う傘の中。お互いを罵る言葉すら、軽快な足取りを彩るリズムになる。

〜Fin



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