※注意 茜さんが好きな方は見ない方がいいかも。 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 一番好きな人よりも、二番目に好きな人と結ばれた方が幸せになれるそうですよ ねぇ、私十年以上想ってたのよ?」 かりんとうをかみ砕く音が酷く重く感じて、王泥喜は彼女の顔を見た。 表情を完全に失っている茜の顔は、妙に違和感があった。感情を欠落させると、人間はこんなにも紛い物じみるのかと感じた途端、身震いがした。 自分もこんな顔をしているのではないだろうか、あの、人の前で。 「他の人ならまだ、納得出来たわ。ヒラヒラした検事さんでも、あの人の側で支えてたらしいあの娘でも、彼を最初は酷く恨んでたって聞いたあの人でも。」 なのに、どうして、彼からバッジを取り上げたあの男を選んだというのかと、茜は王泥喜に向かって吐き捨てる。 「こっちへ帰って来て、話を聞いた時、本当に許せなかった。私を助けてくれたあの人を弁護士という高みから引き吊り降ろしたあの男が。 成歩堂さんだって、きっと、そうなんだと思ってた。なのに…」 引き寄せる腕、柔らかな成歩堂さんの笑み。そして、そっと瞼を落とした響也の安心しきった表情。愛おしいと、互いに伝え合っていた。 偶然に事務所で目にしてしまった光景は、未だに王泥喜の脳裏から消えようとはしなかった。それどころか、日が経つにつれて鮮明に、王泥貴の中に残像を焼き付けていく。 (あのふたりが)という驚愕の思いではなく、(男同士で)という嫌悪の気持ちでもなく、自分は彼が(牙琉響也)が好きなのだと気付いてしまったその瞬間だった。 「なのに、なんで選りに選って…あのジャラジャラなのよ。」 捜査中にも係わらずかりんとうを(敵の如く)貪る茜に、王泥喜は眉間に深い皺を寄せて大きな溜息をついた。敢えて言わせて貰えれば、王泥喜も仕事中だ。 弁護を依頼され現場に出向いてみれば、担当刑事の茜に掴まったという訳で、みぬきちゃんを持参しなかった自分の落ち度かと後悔もしたが、今更どうしようもない。 「そんな事、俺に言われても。」 再び溜息と同時に言葉を吐けば、後頭部にかりんとうが連打される。 「何言ってんのよ! あんたがちゃんと捕まえておかないからでしょ、私知ってるのよ、アンタ自分がどんな目で牙琉響也を見てるか気付いてないの!?」 ぎょっと目を剥いた王泥喜には満足した様子で、茜はふんと鼻息を荒くした。そして、白い粉の入った小さなビニール袋を王泥喜の目の前にぶら下げた。 「私からの手向けの品よ。せいぜい頑張って、成歩堂さんからジャラジャラを引き剥がして頂戴。」 事務所のソファーに座っていた響也は、王泥喜が帰って来た事に気付き、にこりと笑った。 「牙琉検事…どうして此処に?」 「ちょっと用事があって寄ったんだけど、お嬢さんに留守番をいいつかってしまってね。君…か成歩堂さんを待ってたって訳。」 すみませんと頭を下げて、王泥喜は響也の前にある湯飲みが空っぽになっているのを見る。慌てて、それを掴み上げた。 「お茶入れますから、待ってて下さい。」 「うん。今ね、お嬢さんが僕の為に茶菓子を買って来てくれるんだって。ホント、可愛くて好きだよ。」 給湯室に消えた王泥喜の背中に、そう響也は話掛ける。ゆったりとソファーにくつろぐ姿は、嫌味な程に王泥喜の視界を占領していた。しかし、響也の用事が誰を示すのか…は疑いようもない。 「みぬきちゃんが好きですか?」 トンと湯飲みを響也の目の前に置いてやり、王泥喜はそう聞いた。屈託なく笑い、響也は頷く。そして、視線を王泥喜に向けた。 「モチロン、おデコくんの事も好きだよ。一番…とはいかないけれどね。」 「はいはい。二番目でも構いませんよ。」 「それって控えめなのか、自己主張が強いのか微妙な言い方だと思うけど?」 ははと笑い響也は王泥喜が入れたお茶に手を伸ばした。 「…睡眠薬か…」 呆気なくソファーで眠り込んでしまった響也と茜に貰った薬を見比べる。もうちょっと性的な物を想像していたとは、流石に即物的すぎるだろうか。彼女がそれを持っているというのも問題がありそうだ。 「牙琉…検事?」 無防備な寝顔。長い睫毛、薄い唇。頬に掛かる髪は規則正しく上下に揺れる。 引き寄せられるように、王泥喜は顔を近付けた。そうして、正体をなくしたままの響也の唇にそっと、己のものを重ねる。 「一番好きな人よりも、二番目に好きな人と結ばれた方が幸せになれるそうですよ。」 耳元で囁き、王泥喜は不敵に嗤った。 〜Fin
お題配布:確かに恋だった content/ |