楽園の真実


続きはR18です。


 いつもよりずっと大胆かもしれない。
 貪るように、響也の肌に食いつく自分を王泥喜はそう分析する。それだって、熱に浮かされた怪しい思考の中での話だから、疑わしいものだ。しかし、雰囲気に呑まれるというか、日常から切り離された空間というものが与える開放感は侮れない。
 褐色の肌に赤い跡が残るほどに強く吸い上げて、お湯よりも熱い中心を握り込むと、絡め合っていた響也の舌が一瞬離れた。
「…ん…。」
 息継ぎをするようにそれは僅かな時間で、再び吸い付いてくる唇は深い。
 唇全体を使ってちゅっと音を立てられると気恥ずかしさを感じる王泥喜の羞恥心が、脳裏に浮かばなかった。
 熱に当てられているというか、浮かされているというか。ともかく興奮させられている。
 ゆるゆると刺激していた指先を止めて、既に立ち上がっている先に軽く爪を立てた。王泥喜にとっては小さな仕草でも、響也には大きな刺激になる行為。
「…あ、ん…!」
 声を上げてびくんと大きく背を仰け反らせ、湯船から湯が溢れて大きな音を立てた。
 そのことで、僅かに戻った理性が王泥喜が動きを止める。
仲居さんが湯治客が近くにいるのではないか。そんな余計な心配が脳裏を掠める。
普通に考えればそれは覗き行為であり、有り得ない話だけれど、ドキドキと鼓動を激しくする心臓と余分に廻っている血液のおかげで無駄な部分に思考が廻った。
 …否。慣れない状況に不安になっているだけかもしれない。

「大丈夫、鍵かけてある、し。」
 くすくすっと少し意地悪気味に響也が笑い、王泥喜の胸元に指先を這わせる。ピンと弾かれた乳首が応えるように立ち上がった。
 うっと息を詰めて、王泥喜は響也を睨んだ。
「わかって、ますよ。」
 ジッとしていると雨音だけが響いてくる。外は暗く浴室の中も仄かな灯りしかなくて、自分の目に映るのは、濡れた瞳を隠さない大切な人。
 世界はふたりの為に存在する、まさしくそんな状況だ。不安のかわりに喜びがこみ上げてくれば、眉間をビキビキと痛ませていた鼓動がその心拍数を戻していく。
 けれど、奇妙に落ち着いてしまった王泥喜に、響也は不満そうに眉を歪めた。ふいに首筋に押し当てた口唇でを吸い上げてくる。
「ちょ…響也さ…。」
 襟に隠れるかどうかという際どい場所に、痕が残ったのではと慌てて隠した掌にもう一度、響也は唇を当てた。
「法介は僕が欲しくないの?」
「欲しいに決まっているでしょ?」
 何をいまさら。
 今度は呆れに溜息が出る。響也は気がつかないようだけれど、冷静さを取り戻した王泥喜のやる気は、有るべき場所に向かってベクトルを急上昇中なのだ。

 これは是非ともわかってもらわなければならない。

 王泥喜は己の手を掴んでいた響也の指を絡め取り、どぷんとお湯に沈めた。白濁の温泉ではないので、視覚でも充分だろうけど此処は欲求も含めて触覚でわかって欲しい。指の腹が棒に触れた途端、響也は息を飲む。
 離れていく王泥喜の指と入れ替えに、彼自身を握り込んだのがわかった。水の中の緩慢な動きでも上下に滑らされたら気持ち良いに決まっている。熱い吐息が王泥喜から漏れれば響也は夢中になって擦り上げてくる。
 こんなに綺麗な人が自分のアレに執着する状況は堪らない。
 響也の注意が全て自分に向いているのを見計らって、王泥喜は双丘の割れ目に沿って指を差し入れ、響也をぎゅっと握る。液体が纏わるのは湯船の中だから普通だけれど、肌と触れるそれは粘着性のあるものだ。 
「…ぁッ、急にぃ…。」
 舌足らずな抗議に笑いが漏れた。 
「最初から、その気だったじゃないですか。」
「法介が、全裸に腕輪だけ、とか…エロいから。」
 ぷいと顔を逸らして告げられた言葉には、驚かされる。
この人がそんな事を思っていた事も自分がエロいとか考えた事もなくて、照れくささを感じる。それを誤魔化す為に、手を早める。
 蕾の入り口をほぐし、そして中の柔襞を指2本でくちゅくちゅと掻き回しながら、タイミングを合わせて雄芯を抜く。
 快感に満たされた嬌声が響き渡るのと、達するのはほぼ同時だった。
 王泥喜の手の中に全てを吐き出し響也はぐったりと肩に凭れかかり、熱い息を漏らした。王泥喜は、響也の息が一定になってきたのを見計らい問い掛けた。
「続き、していいですか・・・?」  
 耳元で囁かれ、しかしふるりと首を横に振った。
「ごめ…ちょっと、待っ、て…。」
 ハァと熱い息を吐き、響也は背中に腕を伸ばして、もう片方の腕で体を支えながら浴槽のふちに持ち上げると、待ちきれなかった様子で岩場に上半身をあずけた。
「のぼせました?」
「少、し。」
 湯の温度は高いものでは無かったが、いった身体にはきついのだろう。
 ひんやりとした岩肌が気持ち良いのか目と閉じている響也の頬に、王泥喜は指を伸ばした。内包した熱は疾患時のそれに近しい。酷く無理をさせた気がして、労るつもりで頬に張り付いた髪を撫で上げてやると、響也は薄目を開けた。

「法介に撫でられると凄く気持ちいいけど、また熱くなりそう…。」

 潤んだ瞳で、しどけない仕草でそう告げられるから堪らない。
 ただでさえ、押しとどめられた股間は爆発寸前。一分一秒たりともお預けは嫌だと吠え始める。
 そんな頭で考える事などやっぱり何処か抜けているだろう。冷やせばいいんじゃないかと短絡思考に走り、両手に蛇口から水を受けて、響也の身体に振りかけてみた。
「あ、ン。冷た…い。」
 ピクンと身体を震わせて仰け反る。気だるい気な吐息が艶っぽく響き、跳ねる足が王泥喜を誘うように開かれる。

 王泥喜法介は、全く大丈夫じゃないです!

 両足に手を添えられ、王泥喜に向けた視線の先。熱い瞳と股間に気付き、ギョッと目を見開く。手を添えることもなく天に向うものに、王泥喜の行動を察した。
 男として辛いのはわかる。わかるが、岩場が背では幾らなんでも痛すぎる。
「ちょ、此処じゃ無理だって「わかってますよ。」」
 眉間に皺を寄せた王泥喜は、苦笑いをしながら響也の肩を抱き寄せた。
(少しだけ掴まってて下さい。)と言い於いて、膝裏に手を回す。横抱きにして持ち上げられたのも驚愕だったが、そのまま歩く王泥喜には感歎した。
 それでも寝室までは無理だったようで、洗い場に敷かれたマットの上に下ろされた。それでも充分に響也を驚かせる。
「凄い力持ちなんだ。」
 相当に重かったらしく王泥喜の呼吸は乱れている。心配になって伸ばそうとした腕で、響也は王泥喜の背中にしがみついた。前置きもなく脚を持ち上げた王泥喜がぐっと腰を押し付ける。性器の先端は響也の中に押し込まれていく。
 さっき乱れていた呼吸は疲れではなく王泥喜の我慢が限界だったせい。響也の身体を気遣う余裕など彼の頭から吹っ飛んでいた。
「…う、んん…!」
 強烈な圧迫感に思わず唇を噛み締めた響也の耳に王泥喜の舌が入り込む。ハァハァと荒い息が熱く犯していく。
「声、聞かせてくださ…ぃ!」
「ア、あああっっ!!」
 ぐいと一気に王泥喜の根元まで押し込まれて、響也は背を仰け反らす。続けて扱き上げられる摩擦に尻を跳ね上げるように振れば、自らが深いところに王泥喜を呼び込む猥らな動きになった。王泥喜の動きも余裕を欠いたもので、まるで叩きつけるような乱暴さで持ってそれに応じる。
 駆け引きも何もない、互いの本能にのみ煽られたセックスは、ただ快楽のみを追い求める。グジュグジュと粘性の音と、肌がぶつかり合う音が浴室に響いた。
 そして、ふたりの荒い息だけが残る。
「…ハァ、ハァ、もう一回洗って、戻りましょう、か。」
 コクンと唾を飲みこんで王泥喜は響也に呼びかけた。身体を預けたまま、響也は少しだけ虚ろで無防備な表情でゆっくりうなずいた。
 そして付け足された言葉に苦笑いを浮かべた。

「今度はちゃんと、イカせますから。」

       ◆ ◆ ◆
 

 夜遅くまで待ってみたけれど、雨足は緩まらなかった。
 予想外の雨は、天気予報によれば急に流れ込んできた冷たい空気が停滞している為で、一日待てば、高気圧が上がって来て晴れるものらしい。
 宿の方は幸いにも空いていたので、もう一泊する分は問題は無かったが、互いの休暇は一日だけ、とにかく互いの上司に伺いを立てる事にした。
 成歩堂の返事は、いつも通りの聞いているのかいないのかわからないようなものだったが休むのは構わないとの事。元々あの事務所には驚くほど仕事が無いのだ。
 心配だったのは響也の方。
 元々多忙な人間で、この一日だけの有休を取るのだって大変だったはず。それが伸びるなんて許されるものだろうか?
 どんな手段を講じても帰って来いなんて命令が返っても可笑しくはない。
しかし、携帯を切ってこちらを向いた響也は、唖然とした表情で王泥喜を見た。
 
「この際だから、溜まった有休を取るようにだって。」

 今まで一度たりとも言われた事のない科白だと告白して、けれど嬉しそうに笑った。
「法介と一緒にいられるね。」
 そんな恋人の様子が嬉しくないはずもなく、王泥喜も笑みを返した。どちらともなく指先を絡めて幸せな時を楽しむ。
 
「まるで、楽園にみえたんだ。」

 ふんわりと響也が告げる。
「ずっと年をとっても、あんな風に法介と幸せそうに笑えたらいいなって。」
 老人達の様子を物欲しげに眺めていた理由がわかって、王泥喜はクスクスと笑う。
「響也さんは本当にロマンチストですよね。」
「いいだろ、思うくらい。どうせ僕は、夢と希望だけが友達だよ! 法介にはそういう浪漫はないのかい!?」
 憤慨して指先を突きつけられ、王泥喜は暫し頭を捻った。そして、思い出した言葉を口にしてみる。
「離れの座敷、ふたりっきりで三日三晩ってロマンはあります。」
 響也は絶句して息を飲む。オプションは赤い襦袢と縛り有でお願いしたいんですと付け加えた王泥喜の顔は欲の色に染まっていた。

       ◆ ◆ ◆

 手足に残る気だるさを少しばかり持て余しながら、響也は眠っている王泥喜に頬を寄せた。
 並べて敷かれた布団の上。すやすやと寝息を立てている王泥喜と違い、響也の目は冴えてしまっていた。
 どんだけやれば気がすむのかと、途中何度も王泥喜に突きつけたくなったものの、繋がった身体が離れてしまうと、どうにも寂しい。
 汗で頬に張り付いた王泥喜の髪をゆっくりと撫で上げれば、その柔らかい感触でさえ響也には充分刺激的だった。過敏になった身体にむず痒い感覚が走り、つい身体を震わせてしまう。もっと欲しくて、自分が酷く淫乱になった気がする。
 
 
       ◆ ◆ ◆ 
 
 目が醒めたのは、誰かさんがボーカルを努めていたバンドの曲が聞こえてきたせいだった。
 昨日が夢のようだったから、これも夢だと勘違いしそうになって慌てて飛び起きた。響也が仕事関係からの連絡に使用している着メロだと知っていたからだ。
 けれど、昨日寄り添って眠ったはずの相手がいない。
咄嗟に場所を特定出来ず、しかし、重要な用件だったらどうしようと迷った挙げ句に、王泥喜は着信ボタンを押した。

『響也か?』

 仕事関係なのに、名前呼び?
一瞬答えに詰まった王泥喜の気配を察したのか、今度は相手の対応が変わった。
『すまないが、牙琉響也の携帯ではないのか?』
「はい、そうです。俺は代理で…その、王泥喜という者で『ああ、君の事は知っておいるよ。聞いた事はないだろうか、私は御剣怜待というものだ。』」
 御剣検事!?
 直接話をしたことはないが、成歩堂からも響也からも聞く名前。検事局のお偉さんに違いなく、どうしてそんな偉い人が成歩堂の友人なのか頭を捻るところだ。
「すみません。牙琉検事の姿が見えなくて、戻って来たらかけ直して貰います。」
『いや、せっかく休暇を楽しんでいるのだ。聞けないならそれでいいだろう。』

 …随分寛大な上司だと王泥喜は感嘆した。いや、確か響也の話によれば珍しい事のはずだ。

「ありがとうございます。」
 やれやれそんな声と溜息が聞こえた。
『成歩堂が可愛い子供の下見だとか言っていたが、やはり君の事だったのだな。』
 王泥喜は握っていた携帯を取り落としそうになった。
「成歩堂さんがですか?」
『滞在している旅館は、成歩堂に薦められたのではないのか? その為に私とアレは…いや、その、なんでもない。とても良いところだ、楽しみたまえ。』
 ゴホンゴホンとわざとらしい咳で言葉を濁す。
『休暇中の仕事をフォローして貰ったのだ。牙琉検事のフォローは私がしよう。のんびりするがいいと伝えてくれたまえ。』
 最後は尊大に電話は切れた。
 やっぱり、黒幕は成歩堂だったのだ。察するに御剣さんと温泉へ行くために自分と響也を利用したに違いない。
 
 楽園の正体を目の当たりにして、王泥喜の眉間には深い皺が刻まれた。

「法介。」
 
 ゆるゆると開いた扉の向こうは、内風呂だった。
「響也さん、そこに…。」
 ぺたりと座り込んでいる響也の姿に、王泥喜は胸を高鳴らせた。着崩れた浴衣の裾から覗く褐色の肌がなんとも艶っぽい。
「ごめ、なんか…欲しくなっちゃって…。」
 伏目がちに懇願してくる表情が溜まらない。「来てくれる?」

 正体が何であれ、此処は楽園。

王泥喜は緩んだ頬を持ち上げつつ、愛おしい人の元へ向うべく腰を上げた。



…中途半端ですみません。
王響で本格的にエロい話を書いた事が無かったので、頑張ってみようと思ったんですが無駄に長くなっただけでした。描写少ねぇええ(泣








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