あんまり離れてると、あんたの顔を忘れそうだ



※TV版第1章の中の1話を想定し捏造。番組開始から15分経った位(細かいなぁ・苦笑)


 魔獣の起こす竜巻は、三人を傷付ける、もしくは致命傷を与えると言ったものではなく、魔法騎士達を引き離す事にあったらしい。
「海ちゃん! 風ちゃん!」
 風の中心から最も距離を置いていた光は、片手に握っている剣を力一杯地面に突き刺し、体勢を低く取る。海は傍らで風に嬲られ、しかし根の深さがそれを凌いでいるらしい樹に剣を差した。両手に力を込めて身体を固定する。バサバサと煩い程に衣服が風に玩ばれる。
 しかし、彼女等を守る為に、前面に立ち防御魔法を駆使していた風は、一瞬対処が遅れた。その一瞬は、か細い風の身体を風で押し流すのに充分な時間だった。
 吸い込まれてしまえば、中心に立つ獣の回りを螺旋状に上がっていく力に従うより他は無い。仲間の名を呼び離れていく姿に、光は動けない身体のまま顔を上げる。
「風ちゃん!」
 しかし、すまじい風が起こす音に掻き消され、光と海は上空へ消えていく仲間の姿に、ただ唇を噛み締めた。



 うっすらと目が開く。
透明感のある碧が瞳にうつった。冗談のように空に浮く山々の姿も確認出来た。
「…どうも、天国という訳ではないようですわね…。」
 自分の状況を把握するまでにはいかなくても、生きているのだと確信して、風はそう呟いた。投げされた両手両足をゆっくりと引き寄せれば、ガサガサと葉が絡まる音がする。身体全体の軋むような痛みを堪えながら上半身を起こすと、周囲は緑で囲まれていた。

「まさか、沈黙の森ではありませんよね?」

 小首を傾げて、確かめるべく魔法を唱えてみた。ふんわりと自分の身体を包んだ治癒魔法は、風の身体に残る傷を瞬時に癒してくれる。
「その心配はしなくてもよさそうですわね。」
 ホウと溜息をつき、身体の横に置いていた掌をずらした瞬間、そこには何の支えもなくなっていて風は身体を大きく傾がせて、慌てて下を見た。
 地面は遠い。
 遥か下に、茶色や緑が見えるものの、自分が大樹の枝に引っ掛かっているのだと認識出来た。そう考えてみれば、こういうクッション素材に乗っかっていなければ直接地面に叩き付けられ、とっくに絶命しているはずだ。そう考え、ほっと胸を撫で下ろす。
 はぐれてしまった海や光の事が気にはなったが、今の状況ではどうすることも出来ないだろう。取りあえず、自由に行動出来る地面へ降り立ち、場所の特定をしてから、先を行動を決めなければなるまい。
 そこまで思考を巡らせて、風はあっと制服のポケットを上から抑える。固くて丸いものが存在する事を確かめて、もう一度ほっと息を吐いた。
 急いで取り出し、確認したオーブには傷もない。
「良かったですわ…。」
 安堵の笑みが浮かび、そして頬が熱くなる。
自分は何をやっているのか。生命の危機的状況にも係わらず、フェリオから贈られたオーブがあることに安堵してしまう。特に欲しいと言った訳ではなく、半ば押し付けられたようなものなのに…。
 悪戯めいた表情の奥。自分を見つめる琥珀の瞳は、いつも何処か憂いを帯びていた。堂々とした剣の腕や、渡り合う才覚を知っているにも係わらず、隠しきれない不安をその色を感じて、風は理由が知りたくなるのだ。

「どうしていらっしゃるのでしょうね。」

 ポツリと呟き、風は頭を左右に振った。こんな事をしている場合ではないのだ。高層ビルから飛び降りるような覚悟で、地面に向かわねばならない。
 再びポケットにオーブを仕舞い、風は慎重に脚を下に伸びた枝にかけた。


〜To Be Continued



お題配布:確かに恋だった


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