空には満月。
 黒鋼は、刀に顎を乗せそれを睨んでいる。
「黒り〜ん。何見てるのぉ〜。」
 へらへら魔導師が戸口から声を掛けるが、黒鋼はそれを一瞥して、視線を外に戻した。
 曇りない空に浮ぶ琥珀の耀き。
「ん〜ん?。おっきいまん丸だね〜。」
 額に手を翳し、片目を閉じながらファイも外を見つめる。
「明るすぎる…。」
 ボソリと呟いた黒鋼の言葉を、ファイはへらりと笑いながら受止めた。
「やっぱり黒りんは、夜の商売の人だね。明るいと困るなんて。…てことは、黒りんの住んでた世界には、こんなのが見えるんだね〜。」
「…お前ン所には無いのかよ。」
「それは、企業秘密って事で…。」
「ふん、喰えない奴だ。」
「でも、小狼くんやサクラちゃんは喜びそうだな〜。起こしてあげよっかなぁ〜。すっごい真ん丸だし、綺麗だし〜。」
「うっせいから、止めろ。…ついでにお前も煩い。」
 ファイは両手を胸の前で組んでくねくねっと身体を振るわせた。
「黒りん酷い〜。あそっか、黒んぱの世界を思い出してたんだ。帰りたい〜?」
「とっとと、帰って俺を飛ばしやがった『姫』と遊びたいのさ。」
 黒鋼は、ニヤリと不敵な笑みを浮べた。ファイは、そんな黒鋼の様子を微笑みながら見ていたが、同じく月を見つめた。端正な横顔が淡い光に映える。
「思い出があるから黒んぱは自分の世界に帰りたい。オレは思い出があるから、帰れない。小狼くんとサクラちゃんは 思い出を無くしてしまった。…不思議な道連れだね。オレ達は。」
 おふざけ魔導師の真摯な言葉に黒鋼は微かに目を見開いた。
「旅は道連れ世は情けなの〜!!」
 ぴょんと黒鋼の頭に乗った白饅頭は、月光を背中にしょってポーズを決めた。
「月に代わってお仕置きよ〜!!」
「ヒューヒュー!(勿論口で言ってます。)モコナかっこい〜!!」
「侑子のとこのテレビで見たの〜!モコナ美少女戦士〜!」
「わけわかんねぇこと言ってんじゃね〜!!」
 ブチリと音がして、黒鋼の額に皺の層が彫りこまれる。少しでもファイの話を聞く気になっていた自分にも腹が立った。
「お前らまとめてたたっきてやる!!!!」
 騒々しさに目を覚ました小狼が見たのは、月に吼える黒鋼の姿だったとか。



〜fin





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