永遠と思う事


 其処は雪国で、旅にでから何度か巡り会った季節だけれど、それでも砂漠の国で生まれ育ったサクラ姫には珍しいらしい。黒鋼さんとファイさんのおもろかしい口喧嘩を止めている間に、外に出てしまっていた。
「姫!」
 小狼が彼女を探しあてた時、姫は白い雪の中に倒れ込んでいる。少女の白い肌の上に花びらの様に雪が舞う。
「また眠気が!?でも、こんな所でなくても。」
 慌て少女の身体を抱き起こそうとした小狼は大きく目を見開いた。腕の中のサクラ姫がクスクスと笑う。
「ごめんなさい。」
 ぱっちりと目を開けた姫の顔が間近で小狼の顔が朱に染まる。
「最初はね、頬に受けてるだけで気持ち良かったの。でもね、その内にね全部で雪を感じたくなったの。それでね…」  次々に雪の効能を紡ぎ出す、桜色の唇を見つめながら小狼は微笑んだ。
 生い立ちが幸せと言えなかったせいなのか、楽しいと思える事がずっと続くと思えた事は無かった。現にサクラ姫との様々な思い出は、彼女の中には無い。自分しかわからないそれは、夢のようだ。
『永遠などない。』
これは事実だ。
なのに彼女は何故笑っている?記憶を失い、辛い旅に向かいながら。変わらない笑顔で。
 自分を見つめながら言葉を発しない小狼にサクラの眉がひそめられる。
彼女はそっと手を伸ばすと、小狼の頬を両手で包んだ。
「姫…?」
 驚いた小狼に、サクラ姫はフワリと微笑む。
「指先が冷たくなっちゃった。小狼君は温かいね。」
 両手を口元に運んで、ハァと息をふきかけて、姫の指が再度頬に当てられる。
「少しは温かくなったかな?雪って不思議ね。すぐに溶けてしまうのに、冷たさだけは残して行くの。」
「しかし、姫。地面には積もっているようですが。」
「あっ、そうだね。いっぱいあると中々消えないんだ。小狼君は凄いね。」
 クスクス笑う姫に小狼は滝汗を流し、そして笑った。
 自分の欲しいものは『永遠』では無いのだ。小狼は唐突にだが思った。サクラ姫が笑っているから『永遠』を望んでしまう…それだけなのだと。
 サクラがおや?と首を傾げる。家から二つの影が飛び出す。
「だって黒りんがぁ〜」
「誰が黒りんだッッ!」
「黒鋼さん、ファイさん。」
「追いかけなきゃ小狼君!」
 すっくと立ち上がり小狼に手を差し出す。躊躇いも無く出された少女の手はまだ冷たい。
 雪が溶けても残る冷たさがあるように、事実が消えても残る想いは此処(胸)にある。『永遠』と呼ぶには苦笑するものであったとしても。
「はい、サクラ姫。」
 握り返した手に力を込めて、二人も走り出した。



〜fin



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