※TV版


愛の法則はたった一つ、だそうです


 けれど、願いが全て叶うはずがないと気付かされるまで、時間はそれほど必要では無かった。
 大学に合格した頃だっただろうか、オーブは少しずつ動きを止めていった。
完全に動かなくなってしまったのは、就職を決めた時。今では誰の言葉を写す事もなく、輝く事もない。
 勿論それまでの間にセフィーロへと赴けた事などなく、希望は絶望へと変わって言った。
 その頃から、一生変わる事など無いと信じていた友情も、日々の忙しさに紛れて何処か遠くへと行ってしまい。気がつけば、光や海とも年賀状を送り逢うだけのような関係になっていた。
 随分と年月が流れたようにも思う。
先に贈られてきた年賀状には、海はお見合いを薦められていると書いてあった。
 一人娘である彼女がいつまでも独身でいる事を心配した両親がセッティングしたそうだけれど、海も満更でもないようだった。
『親をいつまでも心配させるのもね。』
 電話でそう話していた彼女に、風は我が身を思った。
 幸いな事に姉が婿を取り跡継ぎ問題は発生しなかったものの、確かにいつまでも一人でいる自分を両親は案じている様子だった。
『風さんの好きにしていいのよ。両親の事は私に任せておいて。』
 そう言ってくれる姉の心遣いにも、随分と甘えてきたように思う。
『私は家の道場を手伝って行くんだ。いつでも遊びに来てね。』
 光のように貫き通すだけの強さもないように感じていた。

 大切な初恋。

 そう名を付けて、心の宝箱へ移し替えてもいいのではないかと、近頃は考えるようになっていた。
 東京タワーが見えるから、などと言う理由で選んだ職場は様々な事があったけれど、過ごしてしまえば馴れたそれなりに居心地も良い。
 ビルの中庭にしつらえられた公園でこうしてひとり、東京タワーを見ながら思いを馳せる。
 いままではずっとそうして来たけれど…。

「鳳凰寺先輩!」

 パタパタを手を振って寄ってくる青年に苦笑する。
「私みたいなオバサンとお昼を食べても美味しくないでしょう?」
 向かい側にある弁当屋で購入したのり弁当を嬉々として広げ、彼はにこりと笑った。
「何言ってるんですか、鳳凰寺先輩みたいな美人とお昼出来るなんて最高ですよ。」
「貴方は…。」
 歯の浮きそうな褒め言葉が妙に似合う。小生意気な態度なのに憎めない。子犬のように寄ってくる彼を拒絶出来ない理由は自身でよくわかっていた。

フェリオに似ている。

瞳が顔立ちが、纏う雰囲気が。
そんな事を思ってしまう時点で、私の心は疚しいのだと思う。
 全く別の人に惹かれて彼の事を想い出にしてしまうのならまだしも、似た人間に面影を求めるなんて、フェリオに対しても彼に対しても失礼に違いなかった。

「この間の案件も凄かったなぁ…。ああいう発想の転換っていうか、どうやったら出来るんですか?」
 話し掛けてくる言葉に曖昧に相槌を打つ。
「特にありませんわ。強いて言えば、全く違う事を考える事…でしょうか?」
「仕事ではなく?」
「そう、仕事ではなくて。」
 何気なく答えた言葉に、彼は一瞬沈黙する。

「それは、鳳凰寺先輩の好きな人の事とかですか?」
 
 真顔で聞かれて、風は言葉を失った。
そうして、クスリと笑う。
「そうですわね。こんな歳になっても初恋が忘れられないなんて、可笑しいでしょう?」
 答えには自嘲がたっぷりと含まれていた。けれど、箸を止めたままの彼はきっぱりと言い放つ。
「羨ましいです。」
 瞠目したのは風の方だ。
「僕、大学時代に付き合ってた彼女がいてずっと一緒にいたいと思ってたんですよ。なのに、就職活動やなんやで擦れ違いになって消滅しちゃいました。
 一年も離れていた訳じゃないのに…そう思うと、鳳凰寺先輩をずっと好きにさせておくなんて男として尊敬しますよ。
 あ〜くそ。いい男なんだろうなぁ。腹立つなぁ〜。」
 拳を握ってブンブン振り回す様子が可愛らしい。
「そうですわね。王子様ですから。」
 クスクスッと笑う様子に、からかわないで下さいよと、口を尖らせた。
「でも、白馬の王子様を待ってるなんて、先輩も随分と可愛いです。」
 ニカッと笑う様子もフェリオによく似ていて、風はただ笑みを返した。


〜To Be Continued



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お題配布:確かに恋だった