ランティス×光


 燦々と降り注ぐ太陽と、ここぞとばかりに鳴く蝉立ちと、夏という季節はなんだか騒がしいような気がする。
 光が母親に頼まれた届け物はもうない。一駅挟んで隣り街に住む母の友人へお使いは先程終わった。
 鍔の小さな麦わら帽子はシンプルな赤いリボンが付いた、光のお気に入りだ。好きなものを身につけていると心が弾むけれど、お使いが粗相なく終わった事も光の心を躍らせる。自由になった両手を勢いよく振って元気に歩道を進んだ。
 横断歩道を渡ろうとしたけれど、寸で赤になった信号機に足止めされた。
歩いているとそうでもないが、ジッと立っていると暑さが増すような気がする。
 頬に手の甲を当ててみれば、じっとりと汗が滲んでくる。テレビで言ってた今日の最高気温って何度だったけ…?
 けれど、そんな数字よりも、アスファルトの照り返しは、気温をもっと上昇していくようだ。

「暑っついなぁ〜。」

 小さく呟いて、気を紛らわせるように周囲を見まわす。
「あっ…。」
 声が漏れたのは、美味しいと評判のアイスクリーム店が目に入ったからだ。パステルカラーの可愛い店舗に書かれた名は海から教わったものだった。

『すっごく美味しいのよ、絶対食べてみて、損はさせないわよ!』

 指を振る自慢顔の友人を思い出し、光はくすくすっと笑う。明日は、皆でセフィーロに行く予定だ。久しぶりに逢う友人への手土産話替わりに食べてみるのも悪くないかも、と思い立つ。
 中学生は基本、買い食い禁止だけれど、母親から(暑かったら休憩しなさい)と告げられた事も思い出し、光は店先から中を覗き込む。

「美味しそう…。」

 店内で食べられているアイスに思わず呟きが漏れた。二段や三段に重ねられた色鮮やかな氷菓子達。ウインドウに飾られたものよりも、ヒトに食されて居た方が欲をそそる気がするのは、欲しがりなのかな、と光は小首を傾げる。
「美味しいですよ?」
 店員さんに微笑まれ、光はピョンと耳を出した。自動ドアの範囲に入り込んでいたせいで、扉はとうに開いていたのだ。
 思わず赤面するものの、どうぞと即されケースを覗き込めば、色も味も様々なアイスが光の目を釘付けにする。ひんやりとした甘い食べ物を口に運ぶ瞬間を思い、自然に頬が和んだ。
「どれになさいますか?」
「ええ〜と。」

 唇に指先をあてて、腰を曲げて覗き込む。最初に青い色が目に入った。
白い線が混じった水色のアイス。涼しそうでもあるし、ランティスの瞳にも似ている。
 (美味しそう)なんて言ったら、吃驚した顔をするのだろか? 
でもランティスは、甘いものは駄目なんだよね。でも、さっぱりとしたものだったら結構食べてくれるんだ。この間持っていった屑切り、食べてくれたっけ。
 
 心の隅であれこれと考えを巡らせてから、ふと気付く。
いつでも、彼の嗜好をひきずっている自分が、どうしようもなく不思議に思える。
 これって一体何なのだろう。
 思い出すと嬉しいのに、きゅんと胸が痛くなる。



こころがきみを探してる


 テーブルに行儀悪く肘をついて、光はアイスを舌で舐め取った。
舌先がジンと痺れるような冷たさが心地よい。
 冷房の効いた店内からは、窓の向こうに見える場所は別世界のようだ。そう、高く白い雲が登る青空の先、本物の別世界にランティスがいる。
 明日セフィーロに跳んだ時、ランティスに聞いてみようか。それとも、親友達に相談してみようか? イーグルも話しを聞いてくれるに違いない。
 アイスブルーで艶やかになった唇は、少女をほんの少しだけ大人に近づけたのかもしれない。


お題配布:確かに恋だった
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