>※ランティス×光


恋なんていかがでしょう


「ハロウィンを知らない。」
「ご存知ないんですか、ハロウィンを。」

 海と風、ふたりの声が重なってから、光はコクンと頷いた。
 セフィーロに向かう為に待ち合わせた駅の構内。
10月も末とならば、巷のショップはハロウィンであふれている。黄色と黒のユーモラスなカボチャ達が街をコミカルに彩っていた。
 友人ふたりの驚きに、光は小首を傾げる。
「そうか、どうしてカボチャだらけになっているのかと思っていたけど、冬至じゃなかったんだ。」
(冬至は12月22日頃ですわ。)と正しい豆知識を加えてから、風はクスリと微笑む。
「光さんはRPGをご存知ないのですものね、ハロウィンも知らなくて当たり前かもしれませんわ。ハロウィンは諸聖人の祝日の前夜に行われる祭りの事ですし、元々諸外国の行事ですから。」
「それは私も知らなかったわ、みんなで仮装行列をする日だと思ってた。」
 海もへえと感心してから、商店街を見渡した。
起源はクリスマスやバレンタインと同じ様なものだろうか。さしたる目的もわからずに、外国のお祭りは日本に定着してしまう。こう考えると、懐の広い国だ。
「でもね、風。ハロウィンって具体的に何をするのかしら?」
「さあ?」
 海の疑問に、風も首を捻った。
「仮装行列でしょうか?」
 顔を見合わせた二人はショーウィンドウに飾られたあるものに気付き、あらと声を出す。
「今夜はセフィーロにお泊まりだったわよね。」
「光さん、折角なのでハロウィンを体験してみますか?」
 風の誘いに、光は満面の笑顔で同意した。

 ◆ ◆ ◆

「お前等は、また何の真似だ?奇妙な服だな。」

 セフィーロの人間に言われると、なんともムカツク台詞に海がムと頬を膨らませる。クレフは久しぶりに訪れた魔法騎士の姿をしげしげと眺めていた。
 海は帽子に猫耳がついた黒猫の着ぐるみパジャマを着用中。長い尻尾がアスコットの鼻の下を長く伸ばすお手伝いをしている。
「あのねクレフ、これはね、ハロウィンなんだ!」
 狼男の着ぐるみパジャマを着た光が、ふわふわした尻尾をゆらして説明を始めた。
 それだけで地球の行事なのかと周囲の人間は納得する。魔法騎士達が様々な地球の行事をセフィーロに持ち込んでいるので彼等にも抵抗はない。そう思えば、此処も懐の広い国だろう。
 カボチャをあしらったオレンジの着ぐるみパジャマを着ている風は普段にくらべて沈黙が多い。
 やってはみたものの、派手なパジャマが少々気恥ずかしい。フェリオが仕事遅くなり、今、城にいない事に、彼女は大いに感謝していた。
「…で、それは何をする行事なのだ?」
 可愛らしい着ぐるみの光に興味津々のランティスが尋ねてくる。
 えと、えとね。光はランティスの前で恥ずかしそうに笑い、肘を曲げたまま両腕を少しずらして持ち上げる。

「わん!」

 ポーズを決めるものの、海と風は心中は(狼男だろう!?)というツッコミで溢れていた。怪訝な表情のふたりを見て、あっと光は台詞を思い出す。

「じゃなくって、お菓子をくれないと、悪戯するぞ。」

「ヒカルが俺に、か?」
 一瞬きょとんとした表情をみせたランティスに、なんとも形容しがたい笑みが浮かんだ。
「だが、ヒカルは俺がお菓子を持っている思うのか?」
 考えるまでもなく、光の頭はぶんぶんと左右に振られた。
「なら、悪戯をしてもらわないとな。」
 ヒョイと可愛い狼を抱き上げると、ランティスはすたすたと歩き初める。
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ!お持ち帰りするつもりなの〜〜〜!!!」
 海の抗議を風の溜息が遮った。
「選択を間違えてしまいましたでしょうか?狼を見た、なんていう言葉もあるほどですから…。」
「え!? 風それ、どういう意味よ!」
「此処ではちょっと、調べてみてくださいね、正面を向いてニコリ(誰に言ってるのよ!!←海)」
「…あれが、ハロウィンか?」
 素朴なクレフの疑問に両腕を振り回して、(違う、違う)と海が大声で反論した。 

「海ちゃん達が騒いでるね。」
 ランティスの腕に横抱きにされながら、光が呟いた。腕の中は、大きくて暖かくて、逆らう気になれないほどに心地良い。
「あれがハロウィンなんだろう。」
「う〜ん、実は私もよくわからないんだ。
 取り敢えず、仮装をしてみようってことになっちゃって、私犬が好きだからこれにしたの。」←だから狼男だって言ってるでしょ・海
「よく似合っているな。可愛らしい。」
 クスリと笑うランティスに、光は頬を染めた。
「可愛いなんて言われると、くすぐったい。」
 頬を狼の肉球で包み、光はほわんと微笑んだ。どんな精獣よりも愛らしいなどという台詞をランティスが吐いたかどうかは知らないが、甘いお菓子を貰う変わりに、甘いムードになったのは言うまでもない。
 
 ハロウィンの夜に、恋なんていかがでしょう?


お題配布:確かに恋だった
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