フェリオ×風


貴方となら二人 何度でも恋したい


「俺達はどうしようか?」
 問い掛けつつ覗き込めば、膝の上の少女は、右手で目尻を擦りながら小首を傾げた。可愛らしい瞳は潤んでいて、小さな欠伸が唇から漏れる。
「ああ、眠くなったのか。」
 クスリとフェリオは微笑んで、膝ではなくソファーの上にフウを降ろしてやった。それでもお行儀良くしたいしたいと考えているのか、横になることもなく、ソファーで暫くゆらゆらと体を揺らしていたが、眠気に勝てずに崩れるように眠り込んでしまった。
 すーすーと可愛い寝息が聞こえてくる。
 礼儀正しく、常に周囲を気遣う女性は此処にはいなくて、ただ可愛らしい少女だけが其処にいた。
 本当に幼い子供になってしまったのだと、フェリオは納得した。
 幼い手足をギュッと体に引き寄せる仕草を見せるフウは、肌寒さを感じているのだろうか。気候が穏やかなセフィーロとはいえ、彼女は薄布を一枚着た状態だ。ふわりとした軽い布は本来は、フウのお臍までしかない下着のはず。
 フェリオは彼女に掛ける毛布を探そうと腰を上げる。
 けれど、戸口から覗いていた紫の髪をした少女は、引きずってきたらしい毛布をフェリオに差し出した。
「ありがとう、気が利くな。」
「…。」
 執務官の娘は、ふるふると左右に首を振ってから王子と声を出した。
「さっきはごめんなさい。私のこと嫌いになっちゃった?」
「いいや。でもごめんな、やっぱり一番はフウだ。」
 フェリオはソファーで眠るフウに毛布を掛けてやりながら、少女にそう告げた。眉を顰める困った表情に、少女も唇をへの字に曲げる。
「お姉ちゃん、怒って帰っちゃったの?」
 この部屋にいないフウの姿を探すように視線を彷徨わせてから、唇を噛んだ。フェリオは彼女の頭をそおっと撫でてやりながら「この子がフウだ。」と教えてやる。
 真ん丸になった少女の目が、パチパチと瞬きをした。
「お姉ちゃん、小さくなっちゃの? 魔法?」
「どうなんだろうな、導師でもわからないらしいから、俺にもわからないよ。」
 じいっとソファーで眠るフウを見つめて、少女はもう一度問う。
「私とあんまり変わらない…でも王子はまだお姉ちゃんが好きなの?」
 コクリとフェリオは頷いた。
「心は同じだ。」
「うん。」
 コクリと今度は少女が頷いた。そして、フェリオに向き合う。
「ねぇ、お姉ちゃんの目が覚めるまでわたしと遊んでくれる?」

 ◆ ◆ ◆

 五月蠅かった。
はしゃぐ女の子の甲高い声が耳障りで、眠っていたかったのに引き戻される。
 さっきまでふわふわとして、とても気持ちが良かったのに…。 
 嫌な気分になって、フウは自分に掛けられていた毛布がずるりと床に落ちても拾おうとはしなかった。
 人が歩く場所に落ちたのだから、いつもならすぐに拾うし、畳んで椅子の上に置いただろう。けれど、そうしたくなかった。
 だって、嬉しそうな声が酷く耳障りだから。
横になっていたソファーから、ゆっくりと脚を床へと降ろすと、ひんやりと冷たかった。ペタリペタリと脚音を立てて、フウは声のする方向へと歩く。
 扉の閉められていない部屋を覗けば、見知らぬ女の子とフェリオが床に座り込んでいた。ふたりの間には、白くて大きな紙が広げられていて、其処に描かれたモノを指さして、笑い合っていた。
 フェリオの指先が、紙をなぞる。
途端に女の子が笑い声を上げた。嬉しそうに、甲高い声ではしゃぐ。
 フウはぐにゃりとした唇に気付いた。ぎゅっと引き締めていなければ、今にも声を発してしまいそうだ。何と叫ぶのかわからなかったけれど、きっと良くない言葉を言ってしまう、そんな気がした。
 扉に突っ立つフウに最初に気付いたのは、見知らぬ女の子。
顔を上げ、あっと口が開いたかと思えば、フェリオに近付いて耳打ちをした。左手でフェリオの服をぎゅっと握りしめているのが見えて、フウはもっと唇を噛みしめなくてはならなくて、顔が下を向いた。
「目が覚めたんだな?」
 笑顔でフウの方へ身体を向けたフェリオの表情が一瞬、固まる。
「どうした?フウ。」
 眉を顰めた顔で、フェリオがフウの顔を伺った。少女はフェリオの背中にいて、それでも服を離さないのがわかる。
 フウは口を開き掛け、けれど止めて、たたっとフェリオの方へ駆け寄った。フェリオ身体を衝立のようにして、フウは少女と向き合った。

「怖い夢でもみたか?」

 フェリオの服をぎゅっと掴むフウに、フェリオはそう告げた。
違うと言うように、フウの頭は左右に振られた。
「調子が悪い、とかじゃないよな?」
 再度問われ、フウは同じ仕草をする。そんな様子のフウを少女はじいっと見つめていたが、フェリオの服を離して彼女の腰に両手を置いた。
 
「言いたい事があれば、言えばいいでしょ!」

 高らかな宣戦布告にフウは空いた手をぎゅうと握り、フェリオは目を丸くした。

「私は貴方が眠っていたから、王子に遊んでもらっていただけよ。王子にだって聞いてみればいいわ!」
 大袈裟に両腕を振って、少女はフウを見る。
「…フウは…。」
 言いかけて口ごもる。
「何?」
 少女の視線に耐えかねたのか、フウはフェリオの服を強く握った。助けて欲しいという仕草に、フェリオは取りなすように少女の方を向く。
「あのな…「王子は黙ってて、私はお姉ちゃんに聞いてるの!」…。」
 フェリオを一喝した少女は、そのまま言葉をフウに向ける。
幼いとは言え、女の諍いに口を出してはロクな目に遭わない事は経験済み。フェリオは、そっとフウを見つめた。戸惑う視線が返されれな、躊躇いはあった。
「フウ…。」
「王子の影に隠れて、貴方ずるいわ!私だって、王子の事大好きなのに、独り占めするの!?」


〜To Be Continued



お題配布:確かに恋だった



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