ring finger ※フェリオ×風 「フェリ…!」 「リングを失くした事なら、ヒカル達に聞いた。」 そう言われ、風は言葉を失った。 自分を見つめるフェリオの表情は穏やかで動揺は見えない。 「大丈夫だ。」そう短く言う。 しかし、風自身は己に対する不甲斐なさに涙が溢れてくる。先程まで、必死で我慢していたそれはもう留める事が出来なかった。 「でも、私は貴方がお姉さまから頂いた大切なものを…。」 それ以上は声にならない。嗚咽の中に紛れてしまう。 「お前の泣き顔を見る為にあれを渡したわけじゃない…俺はそう言ったよな。」 フェリオは指先で風の頬に流れる涙を拭う。しかし、何度そうしても彼女の涙は止まらない。少しだけ困ったようにフェリオは眉を寄せた。 「仕方ないな。今だから白状するが、俺だって何度もなくした事がある。」 え、と風は小さく呟くと大きく目を見開いた。 「頂いたのは随分小さな頃だったし、大切なひとにあげるって言う意味もまだわかってなくて、仲良くなった友達や女官長に上げたりしたこともあった。 それに首飾りに繋いでここにかけてて、しょっちゅう落っことしたりした。」 そう言うと指で首回りを指し示す。話しているうちに色々と思い出してきたのだろう、拳を口元に当ててクスクスと笑い出す。 「それでも、なくした時は大泣きだよ。部屋の隅っこで泣いてると、姉上が来てくれてこう言うんだ。 『これは、貴方の大切な方にお渡し出来るようにと願い作ったものです。ですから、貴方が(本当に大切)と感じた方が現れるまではきっと貴方のところへ帰ってきますよ。』って。…でも、あんまり落っことすんで、此処に止められるように姉上が直してくれた。」 フェリオはそう言うと耳のリングを指で弾いた。どうやって止まっているのか…はわからないが、どんなに激しい動きをしてもそのリングが外れたのは見たことがない。 ふいにフェリオの顔が、風を真正面に見つめた。 「本当は最初にリングが戻って来たときには少しだけがっかりした。でも、お前が再び俺の前に現れた時に確信したんだ。誰よりも大切なのはお前だ。リングは必ずお前のところに帰ってくる。」 フェリオはそう言うと風の唇に掠めるような口付けを落とした。 「フェリオ…。」 涙に濡れた翡翠の瞳が瞬いてフェリオを見つめている。 どんな彼女も綺麗なのだ。けれど、やはり笑顔が良い。 「もう泣くな。それとも、フウはリングがないと俺の事を嫌いになってしまうのか?」 「…そんな事…ありません。」 風はフェリオの肩にそっと自分の頭を寄せた。彼女の身体を支えようとフェリオが片手を幹に置くと、それに驚いたように小鳥が巣から飛び立った。 「あ…すま…ん…?」 フェリオは空っぽになった巣に目をやり、そして訝しげに見つめ直した。巣の中に光を反射するものがある。小鳥がいた時には気付かなかったが、金色に光るそれは…。 フェリオはクスリと笑うと、風の髪を撫でて耳元に唇を寄せた。 「フウ…あれ…。」 そして、小鳥の巣を指し示す。 「あ…!」 そちらを見た風が声を上げる。フェリオは枝と枝の間に絡められているリングを、巣を壊さないように取り出すと、彼女の掌にのせてやった。 風はそれを胸の前で両手で抱き込んだ。手の中にある確かな感覚にやっと安堵の気持ちが生まれてくる。 「窓辺にあったから、もの珍しくて巣の材料に持っていったんだろう。人騒がせな奴だ。」 しばらく彼等の周りを飛び交っていた小鳥も再び巣に戻り蹲った。そうすると、もう一羽舞い降りてくると仲良く羽根を繕い始めた。 「見つかったし、ヒカル達も心配していたから戻るか?。」 そう言い、自分の腰に手を掛け樹から降りようとしてたフェリオの手を、風は慌てて制した。 「待って下さい、先にこれを…。」 そう言うと左手の薬指にリングをはめる。 彼女の細くて白い指にそれはあつらえたように収まった。 フェリオは目を細めてその様子を見ていたが、彼女の左手を自分の掌に重ねた。 「フェリオ…?」 「ここに指輪をするのは、ずっと側にいる約束…だったよな。」 「はい。」 あの頃世界で一番好きなのは姉上だった。 リングを他の誰かに手渡す事などあり得ないと思っていた。 しかし、今自分はこうして彼女にそれを託し、彼女も自分の側にいるという約束の指にそれをはめてくれている。 (大切な人と共にいる喜び) 永遠にその幸せを手に入れる事が出来なかった姉の願いをフェリオは思う。 「姉上の分まで幸せになる。なんて、おこがましい事がいえない。けど、フウに側にいて欲しい。それが俺の幸せだ。」 フェリオの言葉に、風は頬を染める。 「私も…。」 それはまるで誓い言葉のようで、途切れた言葉はそのままに合わせた掌の指を絡めて彼等はそっと口付け交わした。 そうして、彼女の薬指には輝くリング。 〜fin
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