小鳥 ※フェリオ×風 風がフェリオの部屋へ入った時、彼は小鳥を見ながら考え事をしていたようだった。 彼女の顔を見るとバツが悪そうに顔を背ける。 「急に帰られて驚きましたわ。」 「…あれは、ヒカルの目の前で小鳥を放すとあいつが悲しむだろうから…。」 ボソボソと言い訳をする彼をじっと見つめていると観念したように再度口を開いた。 「あれは、フウに好意を持っていたから。あの場に留まるのが嫌だった。」 そう言ったフェリオに風は困ったような表情を浮かべる。 「私に触れられたのは偶然ですわ。」 諭すように話す風の瞳は、いつにも増して聡明な輝きを宿していて、フェリオは自分と彼女の距離を感じる。一人で嫉妬して、苛立ちを治める事も出来ない子供っぽい自分をなおさら感じた。 「あいつはいつも俺にお前の事を聞いていた。今日だって、お前に見惚れていた。」 「それは、今日あの方から伺いましたわ。」 「…フウは綺麗だ。」 フェリオはそうきっぱりと言い放つと振り返る。 「俺はお前を誰にも見せたくないとさえ思ってる。」 「フェリオ…。」 驚いたような、呆れたような表情になった風を見ると、尚更情けない気分にはなったが、ここまで言ってしまうともう止められなかった。溜息をひとつ付くと言葉を続ける。 「でも、お前も小鳥のように檻には入れておけない。たとえ、入れておいても、いずれ自分に相応しい空に帰っていってしまうんだろうな。」 フェリオは立ち上がり空へ飛び立てるようにと窓辺に籠を置き、扉を開けた。小鳥は最初は止まり木をあちこち移動していたが、戸口へと向かう。 しかし、ちょんと飛び移ったフェリオの手からは動こうとはしなかった。フェリオは困った顔で、翡翠の小鳥を眺める。 「まだ怪我が治りきってないのかな?」 フェリオが手を伸ばすと、少しだけ羽ばたき、肩や頭に軽快に飛び移る。その様子は、まだ翼を痛めているようには思えなかった。 首を傾げるフェリオを見つめていた風が、クスリと笑った。 「お分かりになりませんか?」 不思議そうな顔をして自分を見つめるフェリオに、風はなおも微笑んだ。他人の心情には酷く鋭いのに、 彼は自分に向けられた感情に疎いところがある。 「その小鳥が逃げないのは、貴方の事が好きだからですわ。誰にも強制されているわけではありません。」 彼の側を離れようとしない小鳥を見つめながら、風は言葉を続けた。 「私も誰かに言われたから貴方の側にいるわけではありません。この小鳥のように…。」 クスリと笑い風はそこで言葉を止めた。そしてこう続ける。 「これ以上言わないとお分かりいただけませんか?」 「ああ、俺はお前ほど聡明じゃない。」 これは、フェリオの仕掛けてきた意地悪。その証拠に、彼の頬は、彼女に次の言葉を知っているかのように赤く染まっている。 風は微笑み−少しばかり頬を染めながら−言葉を続けた。 「貴方の事を誰よりもお慕い申し上げておりますから、私は今此処にいるのですよ?」 小鳥の為に開け放たれた窓から見えるのは、抱き合う二人の姿。どうやら、小鳥は空へ向かったらしい。 しかし鳥達とて永遠に空を飛ぶわけではない。 羽根を休めるのは安心で出来る地上。自分を誰よりも思ってくれているもののところへ降り立つのだから。 彼女を抱き締める優しい腕の中へ。 〜fin
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