※フェリオ×風


 最初にそれを見つけたのは光だった。
 木の根元で片方の羽根をだらりと伸ばした小鳥。放っておくことなど出来ない三人の少女達は、それをセフィーロ城へと連れ帰る。
「風ちゃんの魔法で治らないのかな?」
 光の言葉に、風はしばらく思案していたが「やってみますわ。」と立ち上がった。
 しかし、魔法を掛けても小鳥の様子に変化はなく海はが慌ててクレフを呼びに走った。
「海そんなに私を引っ張るな。お前と私では歩幅が違う。」
「だったら早く背を伸ばしてよ!」
 導師の額に怒りマークが浮かんだが、海はお構いなしだ。
「小鳥が変なのよ!回復の魔法をかけたんのだけど、治ってないみたいなの。」
 クレフは風の手の中の小鳥を覗き込むと、彼女の顔を見つめた。
「フウ、魔法は万能ではない。小鳥にお前の魔法は強力すぎたようだ。副作用が出ている。これは、私が見るよりは、街の術師にでも見てもらった方がいい。」



小鳥


「うわ〜元気になったんだ!」
 普段なら、自分の部屋よりもイーグルやランティスのところへ 真っ先に向かう光がフェリオの部屋へ駆け込んだ。鳥籠の中にいる翡翠のような羽毛を持つ小鳥は、急に近寄ってきた光に驚いたように羽根をばたつかせる。
「おいおい、吃驚してるぞ。」
 眉を潜めるフェリオに、光は御免なさいと頭を下げた。その後から海と風が姿を見せた。
「元気そうになったのね。良かった。」
「ほんとうに良かったですわ。」
 自分の魔法の為に、いっそう小鳥を苦しめてしまったと思っていた風はホッと胸をなで下ろす。
 一度は術者のところで治療して貰ったものの、彼女達が東京に帰る事になり、風が特に悲しそうな表情だったこともあって、フェリオは看病を引き受けていた。
「お手間をお掛けしました。ご苦労様です。」
 丁寧に頭を下げた風に、フェリオは困ったように笑う。
「俺は、時々術者のところへ連れていっただけだ。最初の手当が良かったんだろう。」
 そう言って、フェリオが籠に側に指を近付けると小鳥も側に寄ってきて甘えるように指をつつく。
「随分懐いているのですね。」
 風の言葉にフェリオは苦い顔をする。
「殆ど一日、こいつと二人で仕事をしている、懐きもするさ。ところで、今日は、お前達が術師のところへ連れていくのか?」
「うん。」
 明るい笑顔で答える光にフェリオは頷き返すが、風の顔をみると少しだけ顔を曇らせた。
 聡明な彼女がその事に気付かないはずがない。
「どうかなさいましたか?」
 そう問うと、彼らしくもない歯切れの悪い答えが返ってくる。
「いや…なんでも。もちろんお前も行くんだろう?」
「はい。そう思っておりますが…。」
その答えを聞くと、フェリオはそうかと返事をする。その顔は酷く不機嫌そうだった。



 術師のところに顔を出すと、彼は顔を綻ばせる。
三人が挨拶をしていても、彼の視線は一人を食い入るように見つめていた。それを見ているフェリオは、相 変わらず不機嫌な表情を消さない。術師は、ずっと風の姿を追っていた。
「もう、すっかり良いようですよ。」
 術師は小鳥をしばらく見ていたがにこりと微笑んでそう言った。
「飛べるんだ!?」
 嬉しそうに尋ねた光に頷く。
「ええ、もう大丈夫です。」
「これで放してやるつもりなんだろ?」
 フェリオの問い掛けたに、光はえっと表情を曇らせた。
「しばらく、このままでいるのは駄目?」
 せめて、セフィーロにいる間くらいは…と言葉を続けた光にフェリオは首を横に振る。
「…早く放してやらないと、仲間に置いていかれるかもしれないし、第一ヒカルが情が移って手放しがたくなるぞ。」
 フェリオの言葉に、術師も頷いた。
「ずっと手元に置いておきたいお気持ちはわかりますが、王子の言うとおりだと思いますよ。」
「そうですわね。」
 風も同意する。術師は彼女の顔を見ながらこうつづけた。
「この小鳥は貴方の瞳のように綺麗な羽根ですね。手放しがたいと思う気持ちはよくわかりますよ。」
 え?聞き咎めた風が振り返ると、その腕が壁にしつらえられた棚に当たった、体勢を崩した風の身体を彼が抱き留める。
「申し訳ありません。」
「いえ、僕こそ。急に話掛けてしまって…お怪我はありませんか?」
 風の手を取り、立たせてやる術師の姿をフェリオは睨んでいたが、表情を緩めて溜息を付いた。
「すまん、用事があるから先に帰る。こいつは俺が放しておくから…。」
 鳥籠を手に持ちプイっとそっぽを向くと、フェリオは足早に店を出ていった。
「フェリオ…放しちゃうんだよね。」
「鳥は空へ返してやるのが一番ですよ。」
 術師はそう言って微笑んだ。悲しそうな表情の光を海が慰める。二人を眺めている風の前に術師が立ち、先程の非礼を詫び、改めて…と風の手を取った。
「貴方ともう一度お話がしたいと思っていました。」
 術師はそう言うと熱っぽい目で風を見つめた。 「王子に伺うと遠い国の姫君だから、なかなかこちらへは参られないと聞きましたので、こうしてお会い出来て嬉しいですよ。」
「そうですか。確かになかなかこちらへは参りませんわ。こちらにも、なかなか伺う事は無いようですわね。」
 綺麗な笑顔を見せた風に、術師はそっと握っていた手をはずした。
「想っていらっしゃる方がいらっしゃるんですね?」
そう問い掛けた術師に、風は答えずただにっこりと微笑んだ。


content/ next