Ring ※原作の内容を交えた別物になってしまいました。妄想として許してください。 フェリオが自分の直ぐ前に立ち剣を構えていた。そして、弓を構えた風の方を向く。 「早くあいつらのところに帰るんだ。此処は俺がくい止めておく。」 「でも…。」 フェリオは笑う。 「俺は護衛なんだろ?一通り捌いたら、俺も安全そうな所に逃げるから。」 「はい、…お気をつけて…。」 これ以上此処にいても彼に迷惑をかけるだけと判断して、風は隙を見計らってモコナハウスへ駆け込んだ。 「あ、風ちゃん。フェリオどうしてた?」 「え、ええ…」 語尾を濁しながら、今来た方向を見ると彼の姿は無かった。安全なところに避難したことがわかる。ホッと胸をなで下ろして、そして気付いた。 彼の言動を見る限り、思慮が足りない訳でも実力を過信している訳でもない。確信を持ってこの危険な森の中にいて、生き延びるであろう力を保持している。 不確かな出口など、聞かなくても良いのだ。 つまりそれは、小賢しい自分の策略を知っていながら、彼は乗ってきてくれた事を意味していた。 「どうしたの?風」 窓に手を当てたまま動かない風を心配して海が声を掛けた。 エメロード姫を助けて、東京に帰ろうと思っているのは誰なのでしょうか?フェリオ?自問自答の答えを彼女は口に出した。 「…いいえ、違いますわ…。」 窓に添えられた彼女の手がギュッと握りしめられる。 真剣な表情の風に遠慮して、海もそれ以上は声を掛けない。 彼女の瞳は、夜の森をただ見つめていた。 沈黙の森の出口。 フェリオは正直驚いていた。『半信半疑…だったんだが。』と独り言を呟きながら、走り出していった少女達を見る。 もっとも、未だ確信は得られていない。風という少女の賢さに内心舌を巻きながら、さてどうしたものかと思案していた時だった。先頭を走っていた海が、血塗れになって倒れ込むのが見えた。 ぎょっとして、その先を見やったフェリオの表情が強ばる。 (アルシオーネ) 彼女はチラリと自分を方を向いたが、何の反応も無く、少女達を嘲笑するのに忙しい。どうやら自分の正体に気付かれなかったようだ。 (長い間城には立ち寄っていないのだから当然か。) フェリオはそう思い、成り行きを見守った。 仲間を傷つけられた光の攻撃も、その怒りによって威力を増してはいたが、アルシオーネには今一歩及ばないように感じた。 傷ついた海を抱きかかえながら、言葉を発しようとしない風に問い掛ける。 「…お前も、あのちっこいのも俺に助けて欲しいとは言わないんだな。」 風は一瞬眼を伏せ、しかし真っ直ぐな瞳で自分の顔を見つめた。 「あなたには『沈黙の森』の出口までごいっしょいただくと約束していただきました。それ以上望むのはただのわがままですわ。これは私達の戦いです。」 綺麗だと思った。その強い心が、その決意を秘めた瞳が。 自分の内には、この世界で最も強い心の持ち主がいる。 それも身近な人物として。彼女に比べ得る者など、今までは見た事も無い。 しかし 彼女を知った。 恐らく姉を凌ぐであろう強い心を持った少女の存在を。 『姉の苦悩はこれでやっと終わるのだ。』 安堵に似た、しかし複雑な感情に少しだけ戸惑いながら、アルシオーネを退けた少女達にフェリオは問い掛けた。 (お前達があの「伝説の魔法騎士」だったんだな)と。 「隠していた」と謝る少女達を責める理由は自分には無い…とフェリオは思う。それ以上の隠し事をしているのは自分の方。 姉を助けるという現実がどんなものなのか。 『知らなければ、彼女達が傷つかないとでも俺は思っているのか?』 そんなことはありえないと否定の言葉を繰り返した。それでも、姉の思いを遂げてくれるのは、彼女達だけという事実と、成し遂げてくれるであろう確信もそこにはあった。 自分が教えられる話を全て彼女達に語り、それによって聡い彼女は何かを感じたようだったが、これ以上は話すつもりはなかった。モコナが告げる『エテルナの泉』に向かう必要も無い。フェリオはそう思い別れを告げた。 突然立ち去るフェリオの姿に、風は戸惑いを隠せなかった。 フェリオとこのまま旅を続けていく事が出来るかのような錯覚に自分は陥っていたと感じた。 彼を見つめる自分はどんな顔をしているのだろうか。 胸に溢れる感情は、今まで感じた事の無いものだった。 自分を見つめていたフェリオがふいに近付く。耳のリングをはずすと、自分の手に乗せた。 「おまえにやる。」 そう言うと屈託の無い笑顔を見せた。「でも…私には差し上げるものが…」 渋る風を見て、フェリオはスッと風の前に傅く。そして左手に口付けを落とした。 「ちゃんと礼はいただいた。」 どこかふざけているようにも見えた彼の瞳が、あまりにも深くて一瞬見とれ、そして自分の身に起こった出来事に赤面する。 戸惑う彼女も、真摯な瞳の彼女も、どんなに強い心を持っていてもフェリオの瞳に写る彼女は可愛らしい少女には違いなかった。 悲劇を目の当たりにするという事実を前に、だからこそ、リングは彼女に持っていて欲しいと思ったのは自分の我侭だったのかもしれない。 今そうと告げることは出来ないけれど、自分達行為は姉の幸せの為のもの。 それ以外のものでは無いという俺からの言葉として。 「近いうちにまた会おう『伝説の魔法騎士達』」 伝説の終焉は別れを示す。しかし、それと相反する思いを二人は強く感じた。それは再会の予感。 「心に時間は関係ありませんわ。」 道は繋がる。二人が分け持つリングのように。 〜fin
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