Ring


※原作の内容を交えた別物になってしまいました。妄想として許してください。


 沈黙の森。

 魔物を一刀両断した少年は、モコナを頭にぶら下げたまま、自分達の前に降り立った。セフィーロという場所に来てから出会った彼は四人目の人物。
 成る程、剣と魔法の世界らしく彼は大きな剣を片手で背中にぶら下げている。
 碧の髪、わりと整った顔には大きな傷、瞳は金の色。耳の輪のピアスも金色で、印象的なほどよく似合っていた。服装はきっとこの国ではありきたりの格好なのではないだろうか?歳は自分とさして違っては見えない。

 それにしても疑問は残る。

「一人として生きて出たものはいない。」と言っていたプレセアの言葉を信じるのならば、彼はもっと憔悴するなり困っているなりの様子が相応しいはずなのだ。
 なのに飄々とした態度を見せる彼−フェリオ−の姿は、風の中に湧く疑念の心を増長させる材料にほかならなかった。その上『エスクード』を取りに行くと言う。これは、自分達に対する挑発ともとれる。

 此処でつかず離れずの状態は危険だと風は考察する。
 もしも、彼がザガートの息のかかった人間ならば、自分達の目の届かない場所で何を企むのかわからない。今思い浮かぶ最良の方法は一つしかなかった。



「私たちを『出口』までいっしょにつれていって下さい。」
 小さな三つ編みの少女。長い髪の少女。そして、不思議なものを目にかけた金色の髪の少女。
 胸の中の答えに近しいものが、目の前にあった。
 彼女達は恐らく…。しかし、それは胸の中で留める。
 きっと、早急に物事は進んでいくだろう。フェリオはそう思い、彼女−風−の誘いに乗った。しばらくの間、自分と彼女らは行動を共にする。見極める時間としては充分なはずだ。

「…俺は護衛って訳か」

そう答えて見つめると、風と名乗った少女は笑顔を向けた。その後のやりとりでも彼女は笑顔を崩さない。
心の奥を覆うような微笑は、姉上とその神官に良く似ていた。
フェリオは三人に気付かれないよう溜息をつく。彼の肩にぶら下がっていたモコナだけがそれを見つけると、肩口に上がりフェリオの顔を覗き込んだ。どうしたのだとでも言うように。
「ぷぷ?」
「何でもない…意外と目ざといな、お前。」
 驚いた顔をしたフェリオにモコナは得意そうに耳をばたつかせた。



 日も落ちて、モコナハウスで過ごしていた海はふいに立ち上がった風に驚いて声を掛けた。
「どうしたの?風。」
「少し、外の様子を見て参りますわ。」
 にっこりと笑った風に海は目を丸くしてから、意地悪な笑みを浮かべた。「フェリオの事が気になるの?」
 しかし、風はただ微笑んでさらりとかわしてしまう。
「そうですね。気にならないと言ったら嘘になりますわ。」
「だから、此処で一緒に寝ようって言ったのに。」
 光の言葉には、海も風も困った表情になる。ベッドは一つで、一緒に寝るわけにもいかず、当のフェリオにも『勘弁してくれ』と断られ、光は頬を膨らませ不満そうだ。
 彼女の無邪気さに少々呆れながら、しかしそれは嫌悪ではなく。にっこりと微笑むと風は外へ出て行った。
 昼も薄暗い森は完全に闇に包まれていた。覆いかぶさるような木々は月の明かりも容易にはとおさない。こんなところで夜を過ごすなら、火でも焚いているのではないかと思っていた風は戸惑う。獣の咆哮が絶え間なく聞こえる上に、フェリオの居場所がわからない。
「フェリオ…さん?」
 モコナハウスの窓から漏れる明かりが届く範囲まで足を運び、そっと呼んでみる。途端魔獣の雄叫びらしきものが響き身体が震えた。
「何やってるんだ?」
 ふいに頭の上から声がして、見上げるとフェリオが手を伸ばしているのが見えた。
「話があるなら早く来い!ウロウロしていたら格好の餌だ。」
「は、はい。」
 慌てて伸ばした手をしっかりと握られ、身体は宙に浮いた。そのまま、彼が腰掛けていた枝の横に下ろされる。
「何の用だ?」
 深い琥珀の瞳が自分を見つめる。明かりがないせいで、吐息がわかるほどに近づいた彼の顔は怒っているように見えた。
「申し訳ありません。今日助けて頂いたお礼を申し上げたいと思って…。」
「それならもう聞いた。そんな事で夜に出歩くなんて莫迦をするな。」
 風はきょとんとした顔をしてから、口元に手を当ててクスクスと笑い出す。訝しい顔をしたフェリオにごめんなさいと謝ってから風は話始める。
「私、小さな頃から賢い子って言われてましたのよ。莫迦なんて言われたのは貴方が初めてですわ。それも、一日に二度も聞けると思っておりませんでしたのでつい。」
 今度はフェリオが笑い出す。屈託のない子供のような笑顔に風は自分の頬に熱を感じた。彼のような反応を見せる人間に、自分は出会った事は無い。
 ひとしきり笑うとフェリオは言う。
「妙な奴だな、莫迦呼ばわりされて喜ぶなんて。」
「別に喜んでいるわけではありませんわ。」
 ぷいっと横を向いた彼女に今度はフェリオが悪いと謝罪した。
「でも、今の方がいいな。そうやって、笑ったり拗ねたりした方が可愛らしい。」
「まぁ。」
 暗がりで、辛そうに瞳を細めたフェリオの表情を見ることが出来ず、風はからかわれたと思って幹から下へ飛び降りた。
「風!?」
 強い口調と、凪祓われた剣の反射光が見えたと思った瞬間、ボタボタと何かが落ちる音がした。目を凝らすと、何匹もの魔獣が地面に転がっている。
「だから、危険だと言っただろう!」


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