ツバサother2


 黒鋼達とキャンプをしている場所まで、走っていたサクラは、同じ方向に向かって走っていたタータとタトラに気が付いた。
「どうしたんですか!!」
 サクラがそう声を掛けても二人は気付かない。今度は両手でメガホンを造るようにして声は張った。
「タータさん!タトラさん!!どうしたんです
 今度は、サクラの声は二人に届き立ち止まる。
「あら、サクラちゃん。」
 のんびりとした声が返ってきて、さすがの、のほほんサクラも困った顔になる。
「サクラこそどうした?」
「今、調査隊のキャンプで、神殿の海域の水が熱くなってるって!」
 やっぱり、そう言うとタータは、サクラの手を引いて、今度は調査隊の方に引き返そうとした。
「待って下さい。私、黒鋼さんやファイさんにこの事を知らせてあげないと…。まだ、いつもの砂浜で手掛かりを探していらっしゃるはずなんです。」
「それは、私が行きますわ。」
 タトラはそう言うが早いか、走り出す。おっとりとしたその様子には似合わない俊足に思わずサクラの目もぱちくりと瞬きする。
 タータはサクラの方を向いた。
「海鳴はせえへんし、波も引いてないようやけどこっちと反対側の砂浜にぎょうさん魚が移動しとるらしいんや。」
「それって、どういう…。」
 ふるっとタータは頭を振った。
「わからん、年寄りどもに聞いたら大丈夫や言うとったけど大波でもくるんやったらことやろ。」
 見ると、砂浜にいた人々が徐々に高台へ移動しつつあった。
「あいつらのキャンプも比較的海沿いにある。ここら辺にくる大波はあなどっちゃいかん。行くでサクラ!」
「はい!」
 軽快に返事をかえすと、サクラは既に走り出していたタータの後を追った。

「少年。ここに羽根はあったか?」
 切迫したジェオの声にそれまで、モニターを凝視していた小狼も首を横に振る。
「いいえ…。」
 腕の中のモコナはまだ、眠ったまま。しかし、モコナは、この国に落ちた時、羽根があるとは言わなかった。力を感じる。そう四人に告げている。
 あそこにあるのかもしれない。ないのかもしれない。
 自分一人の事なら、何があってもこの場から逃げる事はないと断言出来た。しかし、今は一人ではない。
「もう限界だよ〜。」
 横でザズの情けない声がした。
 波間にくらげのように浮きながら、ファイは泡が増えていくのを眺めている。側でパチンと弾ける泡は熱い。
「ん〜?」
 あれかもね。小さく呟いた言葉は海面に飲み込まれる。そして、くるりと後ろを向いた。
 ファイの様子を伺っていた黒鋼が訝しい顔で彼を見つめる。
「黒り〜ん!ちょっと離れた方がいいかもよ〜!!」
 その言葉と同時に、黒鋼は海に向かって走り始めた。
「あっれ〜?来ちゃうの〜?」
「てめぇの言葉なんか信用出来るか!!」
 クスクスッと笑って、ファイは波間に消えた。
「やっぱり何か企んでやがるな!?」
 大声で叫ぶと、黒鋼も海に飛び込んだ。



 テントの横の海面を見たタータが、目を見開く。
「海面が上っとる。」
「え?」
 足を止めて振り返ったサクラに、ふるっと首を横に振りながらタータは視線を戻した。
「なんや知らんけど、やばそうなのにあの連中なにしとんねん。行くでサクラ!」
「はい!」
 テントに飛び込むと、其処にはジェオ、ザズ、小狼+モコナだけ。
 他の調査員の姿は消えていた。
「何しとんのあんた達!?」
 タータの叫びに振り返ったのは、ザズ。
 大きな瞳に涙を浮かべて、サクラを見ると四つん這いになったまま、素早くサクラに近寄ると訴えた。
「マシンがもう限界なのに〜あの二人がぁああ〜。」
「どないしたんや。他にぎょうさん人おったやないか。」
 大股で、ジェオに近づくとやっと彼は顔を上げた。そして、戸口に立っているサクラに気付く。「どうした?あいつらに知らせに行ったんじゃ?
「途中で、タータさんとタトラさんにお会いしたんです。黒鋼さんとファイさんにはタトラさんが教えに行って下さっています。」
「そうか。」
 それだけ言うと、ジェオは顔をモニターに戻した。しかし、その顔をがっしりと掴むとタータは無理やり自分の方に向ける。ゴキッという物騒な音と共に自分の方を向いたジェオにタータは喰って掛かる。
「だから、此処にいた連中はどないしたんや!?海面が上ってるんや危ないやろ!?」
 イデデと言う言葉を付け加えながら、ジェオはタータの手を振りほどいて、首筋に手を当てながらタータを見る。
「だから、他の奴らは避難させたんだよ。俺は責任者なんだから逃げるわけにはいかないだろう。」
 そう言って、顎で小狼を示した。彼はこれだけの騒ぎにも関わらず、必死にモニターに目を走らせていた。
「これ以上の高温は、マシンが耐えられないんだってば〜〜!!!」
 重なるようにザズの悲鳴が上がる。


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