昔話


 扇が何回が振られて、アスコットの自称お友達は夢の中。
「な、なんで〜!?」
 涙目のアスコットは、カルディナに壁まで追いつめられた。
「可愛いお子様かと思うたけど、随分悪戯者やねぇ。うちに勝とうなんて五十六億八千万円はやいわ。」
 そこは『年』だろうとツッコミをいれたいところだが、アスコットは完全に参っていた。
「だ、だって!どうせ、僕の事が嫌いなんだろう!?」
「誰も嫌いゆうてるわけやあらへんがな。」
 カルディナはそう言うと、その肌も顕わな服装のどこから取り出したのか小さなお菓子の入った袋を取り出した。アスコットの目の前振ってみせる。
「折角手に入れたから、わけたろう思て声かけたんよ。ほれ?食べ。」
 しばらくは目をぱちぱちさせてから、両手を出して受け取った。
「おばちゃんは?」
 お菓子を頬張りながらそう言ったアスコットの頭は、左右の振り子のように揺れる程どつかれた。
「何するんだよ!!」
 涙目になって、両手で頭を抱えながら再度見上げると顔半分に黒ベタを塗ったカルディナの顔が迫っていた。
「もいっぺんゆうてみ?」
「え…?」
「だぁかぁらぁ。」
 口裂け女よろしくカルディナの口角がもちあがる。アスコットは震え上がった。
「なぁ、坊や?もいっぺんゆうてみ?」
「………。」
 怒っているこの女は、それも尋常な怒りではない。
「な、なんで怒ってるんだよ。」
「なんでゆうたね!!!!!」
「この(といいつつ、一回転そして手に扇を広げて、くびれた腰に手を置くと形良く整った胸を大きく反らした。)魅惑的なナイスバディあんどチャーミングなうちを掴まえて『おばさん』よばわりとはいい根性しとるやないか!!」
「なんでそんな事で殴るんだよ!!」

 大きな大人の男はおじさん。それ以下はおにいさん。
 大きな大人の女はおばさん。それ以下はおねえさん。

 アスコットの中での区別はそれしかない。
 子供は悪意を持つことなくそんなものである。

「おばさん言うんはな、アルシオーネみたいな女をさすんや!うちはまだお姉さんや!!」
 そうだったのか、アスコットはそう思った。
 こんなに怒っているんだからそうなんだろう。うんうんわかった。

 アルシオーネはおばさん。
 カルディナはおねえさん。

 アスコットの脳内基準は改正(刷り込まれた)された。
「わかったか?」
 目尻に涙を溜めながら、アスコットはうんうんと頷いた。
「わかればええんよ。どついたりして悪かったなぁ。もっと食べ。」
「…うん。」
 再びお菓子を食べ始めるアスコットを見ながら、カルディナは楽しそうに笑っている。
 アスコットは躊躇いがちに問い掛けた。
「おねえさんは、僕や友達の事怖がらないの?」
 カルディナはけらけらと笑って、アスコットの頭をぐりぐりと撫でる。
「色んな事が出来る人間がおるさかい面白いんやないか。ちーとも怖ないわ。」
 ぱぁっとアスコットの顔が明るくなる。
「あの…。」
「それに、こないな力があれば、ぎょーさん金儲けができるんとちゃうか!?」
「へ?」
「凄い才能やわ〜どんどん開花させて、うちと金儲けしよなvvvv」
 バックに、ハートと金貨が飛び回る様子を映し出し満開笑顔のカルディを見ながらアスコットは目を白黒させる。

「おねえ…。」
「カルディナや。うちの名前はカルディナ!おぼえとき。」
「僕アスコット…。」
 カルディナは、ギュッとアスコットを腕の中に抱き込んだ。
「じゃあ、アスコット。これからうちとぎょーさん金儲けしよや!」
 そして、アスコットはコクリと頷いた。

 そうやって知り合った二人は今も幸せに暮らしているようです。めでたしめでたし。
…かな?


〜fin



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