七夕


 月よりも大きなその星は、まわりにある星々のよりも碧く光る。

 セフィーロの崩壊が止まり、再生を果たした後に築かれた城のエントランスにだけ現れるその星の姿は、一体誰が最初に見つけたのだろうか。

 それは、その城の構築に際し積を任された王子だったのかもしれないし、たまたまそこを訪れた静かなところを好む無口な剣士だったか、あるいは魔術の特訓を試みている召喚師もしくはその師匠にもあたる導師だったのかもしれない。

 その誰が見つけたにしろ、最初は驚いたに違いない。なにしろ、そんなに大きな星なのに、昼夜問わず、このエントランスからしか見る事が出来いのだから。

 そして、その碧さを讃えた美しい星は、彼らに酷く懐かしい感覚を呼び起こさせ、それは、今は思い出しか残してはいない三人の少女達が見せてくれた力強くそして優しい心。
 何故かその星を見ていると、直ぐ近くに彼女達がいるようにも思えた。

 だから、皆が口々にそういい始めた。
『あれは、魔法騎士達の星』だと。

 ランティスは、夜空を仰ぎ見る。
 いつものようにあの星は輝いていた。
「伸ばされた手は、触れ合う事もなく。
「好き」という言葉は宙に消えた。

 再びの逢瀬が訪れものなのか、それは誰にもわからない。

 しかし、ここを訪れるものは皆信じている。
 彼女達と、その伸ばされた手を握り合う日が訪れる事を。

「なんだ、お前もいたのか?」
「王子こそ…。」
「まぁ、な」
 フェリオは、ランティスと同じようにその星を仰ぎ見てこう呟いた。
「俺達が、彼女達の星を見ることが出来るなら、彼女達もセフィーロを見る事が出来るんだろうか?」
 少しだけ首を傾けて考えるふりをしてから、ランティスは微笑む。疑問の形式をとっているが、王子の中にも確信はあるのだろう。星を見つめる彼の顔は笑みを浮かべている。
「きっと…見えている。」
「そうだな。」
 そしていると、又足音がする。それはいつもの事。
 彼女達を思う者達が、いつとも決めずここを訪れるのだから。
「しかし、今夜は大勢見に来そうだ。」
 なんだかそんな気がするよという王子の言葉に再びランティスは頷いた。

 

 東京タワーの最上階で、三人の少女は外を見つめていた。
 空に浮かぶ星。セフィーロ。
「今日は七夕だって言うのにサービス無しね。ひょっとしたらって思っちゃうじゃない。」
 頬を膨らませて言った海の言葉に風がクスリと笑う。
「雨が降っていますから、織姫と彦星もお会いできなかったのではないのですか?」
「ケチくさいわね。〜ねぇ。光」
「うん。」
 光は、雨の中でも輝きを失う事のない星をじっと眺めていた。
 そうしていると、あの黒衣の剣士も自分を見つめてくれているようなそんな思いにとらわれる。
「いつか、行こう。」
 クルリと振り返った光は、海と風に微笑みかけた。
「もちろんですわ。皆さんにお会いしたいですもの。」
「あら、風が逢いたいのはフェリオでしょ?」
 海はそう茶化してから腰に手を当てて胸を反らした。
「私も絶対行くわよ。やっぱりこのままじゃ消化不良になっちゃうもの!今度はキパッと決めるわ。」
「年に一回なんて言わない!何度だって行けるようになる。私は信じてる。」
 頷き合ってから少女達は、手すりに折り重なるように身体を寄せると空を見上げる。

 きっといつか、その手を重なり合わせる為に。



〜fin



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