notice 光に気付いたランティスが笑顔を見せる。 「お帰りランティス。」 「ああ。」 「あ、あのね。ランティスそれ、見せてもらってもいい?」 遠慮がちに聞くと、ランティスは不思議そうな顔をしたが光の手のひらにそれを乗せた。綺麗な刺繍の入った小箱。 そっと蓋を開けると、ブローチなのだろうか?中心に深い翠色の宝石が埋め込まれた細工物。周りに施された金飾りも細かく上品で手が込んでいる。 きっと、名のある細工師のものなのだろう。素人である光の目にもそうと分かる高級品だ。 ランティスは、これを誰に贈るのだろうか? 光の胸は、何かが支えたように重く感じられた。 出来上がった品物が気に入らず、手直しまでさせたとプリメーラは言っていた。 自分に贈ってくれるつもりが無い事は、ランティスの様子からも伺える。 「もう、いいか?」 じっと見入っていた光に、ランティスは声を掛ける。 光は慌てて蓋を閉じると、ランティスに手渡した。彼は大切そうにそれを受け取るのを見ているとまた、胸が波打つ。 「あ、うん。ありがとう。」 取ってつけたようになってしまったお礼の言葉を言うと、ランティスは優しい笑顔を見せた。いつもなら、嬉しくなる彼の笑顔が何故か苦しい。 誰に贈るの? 開きかけた唇が、すぐに固まった。贈られる人物の名前を聞きたくて、でも聞きたく無い。光の頭の上で様子を見ていたプリメーラが痺れを切らしたように叫び出した。 「ランティス!それは一体誰に…!」 「ぷ、プリメーラ!」 慌てて口を抑えようとした光にプリメーラは威嚇する。 「何よ!あんただってはっきりしたいでしょ!」 「…で、でも…。」 「何騒いでるんだ?プリメーラ。」 近付いてきたフェリオは二人を見ると相変わらずだなと声を掛ける。ランティスは彼の方にくるりと向きを変えた。 「王子。」 呼び止められてフェリオは、ランティスの顔を見る。ああと声を上げ、片手をランティスの方へ差し出した。話題の品は、あっさりとフェリオの手に渡った。 光もプリメーラもあっけにとられて、声も出ない。 「手間をかけたな。」 「いや、俺も用があった。」 箱から取り出すと、フェリオは細かな部分を確認していた。そして、首を傾げる。 「ここ?繋ぎなおしたのか?」 「ああ、どうも注文したものと違うようだったから直してもらっておいた。」 「すまないな。やっぱりランティスに行ってもらって助かった。このままじゃ、新品の外套が使えないところだったよ。今からでは直しも間に合わないからな。」 高級すぎる細工物。そして、凝った入れ物。 なるほど、一国の王子が持つのなら当然だった。 誰だ。ランティスが恋人に贈るものを買っていたなどと言い出したのは…。プリメーラと光は顔を見合わせ、笑い出した。 フェリオは訝しそうに二人を見る。 「ごめんね。何でもないんだ。フェリオ。」 目尻に溜まった涙をゴシゴシとこすりながら、笑いが止まらない光の前にランティスが袋を差し出す。 「光。」 「え?」 差し出された袋の中を見た光は目を丸くする。プレセアが直ぐに売れ切れてしまい、手に入りにくいと言っていたもの。 「わざわざ買ってきてきれたの?」 ランティスは答えず、ただ微笑む。横で見ていたフェリオが笑った。 「なんだ。これを買いに街へ出たのか?俺の用事は二の次なんだからな。」 ランティスにとっては、自国の王子の頼み事の方がついでらしいとフェリオにからかわれ、光の頬が赤くなる。 「ありがとう。ランティス。」 満面の笑顔になった光に嬉しそうにランティスも笑う。 「一緒に食べよう。プリメーラも。」 「私は行かないわ。」 ひらっと光の頭から飛び立つと、フェリオの肩に止まる。人差し指を振って見せた。 「しっかりと掴まえておけ、なんて言ったんだもの。今日はランティスを譲ってあげる。二人っきりで楽しみなさい。行きましょう王子。邪魔すると魔獣に食べられるわよ。」 「そうだな。じゃあ。ありがとうランティス。」 クスリと笑って、フェリオは行ってしまう。 「ふ〜ん。」 「どうした?」 「セフィーロでは、魔獣に食べられるって言うんだ。」 ランティスの顔には何がだ?と書いてある。 「あのね。人の恋路を邪魔するものは、馬に蹴られてって…。」 言ってしまってから、光は真っ赤になって口を抑えた。 「恋…か」 ランティスの問い掛けに光はコクリと頷いた。 「私、ランティスが好きだ。」 光の言い方に微妙な変化を感じて、ランティスが一瞬目を見開く。 光はにっこりと笑うと、お菓子を口にほおばった。 「美味しい!!」 そして、相変わらずの味の良さに感動する。 「ランティスも食べよう。甘くて美味しいよ。」 ランティスは、光の指にあるお菓子を見ていたが微笑むとこう言った。 「俺にとってはさっきの光の言葉の方が、ずっと甘い。」 (notice=気付く) 〜fin
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