ようこそ 風編


「お姉様いらっしゃいましたわ。」
「は〜い。」
 風の呼び声に、空は楽しげに答えて階段を駆け下りてきた。
 あまりに勢い良く降りてきたせいで、最後の数段を三段飛びで降りる羽目になり、最後の数段は、飛び込みを掛けた。そのまま、そこにいたフェリオの上に落下する。
 我が身が可愛ければ前後左右に避けてるのが一般人だが、そこは腐っても鯛。記憶を失っていても王子様。
 日頃の訓練(どんな?)がものをいい、重力が一瞬切れたように両腕の中に抱き留めた。
「お怪我はありませんか、美しいお嬢さん。」
この台詞までもがワンセットなのか、腕の中の空にそう囁いてから床に降ろす。
「まぁ、私ったらおっちょこちょい(←いつの生まれ?)なんだから、ごめんなさい。」
 右手で頭をコツンと軽く叩き。舌を出す。
「もう、お姉様ったらvvvお茶目さんですわ。」
そして、絶妙なタイミングで風の合いの手が入った。
 そのまま突っ込めば、頭蓋骨陥没の上で異世界セフィーロならぬ、補完されて、シンクロ率200%の勢いだったはずなのに…とツッコミを入れたいところだが、それは「いやいや、なになに」と華やかな笑い声に掻き消されていく。
 お客様の嗜みの手土産、セフィーロ銘菓『ウインダム饅頭』を受け取った風が、ああ、そうですわ。とフェリオに振り返る。
「貴方にお会いしたら、お願いしたいことがあるとお姉様が…。」
「何ですか?何でも仰って下さい。」
 頼み事には、にっこり笑顔で問い掛ける。空は赤らめた頬に手を当てて、節目がちにお願い事を口にした。
「フェリオさんは、王子様なんですわよね?」
「はい。」
「私、一度でいいからお姫様ごっこを『リアルバージョン』でやってみたかったんです。」
キラキラと輝く笑顔を向けられれば、フェリオに残された道が頷く事しかない。
「良かったvvv じゃあ、じゃあ、私がお姫様。フェリオさんが王子様ね。それで、風さんがお母さんで、うちのタマちゃんがお父さんでいいかしら〜?」
「お姉様、それはおままごとではありませんか?」
 人差し指を立てて問われた風の疑問はそのままに、リアルバージョンお姫様ごっこは、暫くの間、鳳凰寺家のブームとなった。



〜fin



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