Red[3] 意志 「雨だね。」 隣で、少女が呟く。 「ああ。」ランティスはそう答えた。 天候は変わるものだ…という知識はあった。他国ではそれも何度も経験していた。 そして、この頃のセフィーロはこれが普通だと、王子も言っていた。ただ、失念していただけ。 遠出の途中で雨が降ってくる。などとは、思いつきもしなかっただけの事だ。 「クシュ。」 くしゃみをすると、少女のお下げ髪がぴょんと可愛らしく跳ねる。 「大丈夫か?ヒカル。」 「平気。ランティスも随分濡れているよ?」 自分にマントを翳して雨を防いでいるランティスを光は心配そうに見つめる。 「平気だ。」 ランティスはそう言い、空を眺めた。『柱』がいた時は何時も変わらぬ気候だったセフィーロは、随分変わった。隣にいるこの小さい少女の心で。強い意志で。 ぐいっと光がランティスのマントを引っ張る。 「駄目だランティス。もっと低くしないと雨に濡れるよ。」 草原の真ん中で見つけた雨宿りの木は、ランティスが座ってやっと隠れるような小さなもの。その下に入ってはいても、雨の粒が落ちてくるのでランティスは自分のマントで光を覆っていた。彼自身は、雨宿りの意味があるのかわからない程に濡れている。 「いいんだ。光。お前が濡れなければいい。」 「だめだよ。ランティスが濡れたら、私が嫌なんだ。だって、風邪でも引いたら辛いし、そんなランティスは見たくないんだ。」 光の言葉にランティスは微笑んだ。 「俺も光の辛い顔は見たくない。」 光の頬が赤く染まる。とまどうように視線を揺らしてから、『あっ』と小さく叫んだ。 「セフィーロは意思の世界だったよね。願えば叶うって…。」 「そうだな。今もそれは変わらない。」 「今は、私もランティスも濡れるのは困るから、晴れるように願えばいいんだ。私やってみる。」 光はそう言うと、胸の前で両手を握り目を閉じる。 「私達がこれ以上濡れないように…。お願い。」 一心に願う少女の横顔は、綺麗だった。雨に濡れた肌は白く。キュツと引き締められた唇は淡い色を帯びている。閉じられた瞳には輝きは見えないが、身体全体から光りを発しているようにも見えた。 引き込まれるように見つめたランティスはふいに顔を上げる。 強かった雨足が少しづつ弱まっていく。雲の切れ間から光が差し込んでくると、草原の草花はその身に受けた雨粒で輝きだす。 「ホントに止んだんだ!」 光は、立ち上がると草原に走り出す。飛び散った輝きが光の足跡を残す。 「光の意志の力か…。」 感嘆の言葉を漏らしたランティスもゆっくりと立ち上がった。遠くで光は大きく手を振るのが見える。笑顔を見せる少女は、輝くようだ。 「行こう!ランティス!」 「ああ。」 コクリと頷くと青年は少女の後を追った。 〜fin
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