Red[2] 烈火


噂は聞いていた。セフィーロから来た戦士だと。
 その噂を持ってきたのは、ジェオ・メトロ。
「…セフィーロなんて、おとぎ話かと思っていたぜ。」
 見てくれよと差し出されたそれ。ジェオの腕についた立体映像に浮んだ男は、無愛想な顔でこちらを見ていた。
 黒髪に覆われた冷たい蒼い瞳。
「何言ってるんですか、精神バリヤーに覆われたセフィーロをいつも見ているじゃないですか?」
クスクスと笑った僕を見ながらジェオは頭を掻いた。
「それはそうなんだが、あそこは柱が支えた幸福そのものの世界なんだろう。そこから出てきた人間なんて初めて見たからな。」
「僕も初めてですよ。」
 最初は興味だけだった。映像を見ただけで、人となりがわかる筈も無い。
 ランティスという名を聞いた時も、苗字が無いのかとか、つまらないことがだけが気になった。

 ファイター候補者の控え室で、ランティスに出逢うまで、それは変わることはなかった。



 騒がしいそこにあって尚、彼の周りは静かだった。壁にもたれかかって瞳を閉じている。
 ジェオと並んでも見劣りしないほど大きな男だということは初めて知った。
 オートザムの服装に着替えていた男に、サイズがあったんだなどと思って含み笑いをする。
 僕はわざとその横に並び、いつもの笑顔を彼に向けた。
「苗字ないんですね。」
 僕の質問に、ランティスがゆっくりと眼を開ける。
 澄んだ蒼い瞳。
 水のようだと思ったのは一瞬。その瞳は静寂など湛えてはいなかった。静かな瞳の中に秘めたる炎。
 燃え上がるような焔の耀き。
「…お前は強いな…。」
 僕の質問には答えず、ランティスは低くそう言うと僕の横を過ぎて行った。
 自分から笑顔が消えるのが分かる。
「強いのは貴方の方…かもしれませんね。」

それは、始まりのエピソード。


〜fin



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