ACT.5謎 セフィーロ城で自室にと宛われた部屋。ベッドとテーブル。後は荷物を整理する為の棚があるだけの質素な部屋だったが比較的高い階にあり、窓から城下が一望出来る。街に暮らしている時はそう思う事は無かったが、こうして遠くまで見渡せる場所にいれば、街が戦火にまみれた事が良く分かった。 ウミはベッドに腰をおろし、プレセアの言葉を思い返す。 『武器は人を殺める為と自分を守る為、その両方に使われるわ。どちらを選び取るのかも全て貴方達次第よ』 確かに彼女の言う通りなのだ。 訳もわからないままにこうなってしまったけれど、騎士になるということは、主を守って闘うということだ。 この場合の主は『ザガート王』相手は自国の兵士なのかもしれない。ぞくりと背筋が震える想像に、ウミは両手でもって自らの肩を抱いた。 そんなこと嫌だ。 無駄な諍いを無くしたいと言ったヒカルの言葉もわかるし、状況に従っているフウの行動もわかる。けれど、ウミが心から願っている事ではない。 家に戻り、普通の生活がしたい。それが本音だった。 「パパ、ママ…。」 両親を呼べば、心細さだけが残る。抱えた両膝を引き寄せて深く頭を垂れていれば、ノックの音がした。慌てて目尻を手の甲で拭い返事をすれば静かに扉が開いた。 周囲を伺う様子でフウが部屋へ入り込んで来る。 「どうしたの、フウ?…何か用事があったんだっけ?」 小首を傾げるウミにフウはコクリと頷いた。両手で持って大事そうに抱えていたものをウミに差し出した。 それは黒布の切れ端。 小首を傾げたウミに、フウは僅かに頬を紅潮させた。 「あの方に助けて頂いた際に、洋服を破かせてしまったものですから…。」 そう告げられて、ウミも嗚呼と声を上げた。 転移の術に失敗し見たことも無い場所に放り出された挙げ句にフウは脚に怪我をした。そこにいた少年がフウの手当てをしてくれたのだ。 妙に威圧感のあるお面の奴がいたり、早々に追い出された事もありウミにとっては良い想い出とは言い辛い。 「替わりになるものをお返ししようと思うのですが、布の事とかわからなくて…ウミさんのご実家が商売をなさっていると伺いましたのでお詳しいのではないかと。」 「そんなにお詳しくはないけど…ちょっと貸してみて。」 苦笑したウミは布を手にし、本当に眉を寄せた。 滑らかな手触りや丁寧に織り込まれた糸がかなりの逸品。それも、手伝い程度の知識の自分が分類出来るほどの最上級品だ。 「これって、ファーレンで生産されてるもので高級品よ。残念だけど、アナタが出せるような金額では買えないと思うわ。」 「そうですの…。」 目を丸くしてウミの話を聞いていたフウがポツリと呟く。 「あの方はファーレンの方なのでしょうか。」 大切そうに布を両手で包むフウに、ウミは笑う。 「顔立ちはそうでもなかったけど…でも気障っぽい感じだったわね?。」 「そんな事ありませんわ。そんな高価なものを私の為に破いて下さるなんて、優しい方です。 でも、お返しすることも出来ないなんて申し訳ないですわ。」 頬を染めるフウの姿に今度はウミが目を丸くする。ふうんと呟き、そしてある事を思いつく。 「じゃあ、謝りに行くっていうのはどう?」 「え?」 驚いた表情で目をパチパチッとさせたフウに、ウミは片目を眇めてみせる。 「だってフウ気になるんでしょ?ヒカルも誘って行ってみましょうよ。」 「そんな大勢でいきなりお邪魔するなんて、ご迷惑では…。」 「平気よ、暇そうにしてたじゃない。お礼だけ告げてさっさと帰ればいいのよ!」 ウミに告げられ、フウは頬を染めてコクリと頷いた。じゃあ決まりね!とウミは行動を開始した。 ◆ ◆ ◆ 結界の隙間から忍び込めば、どうしてわかったのかお面の怪人が腕組みをして仁王立ちになっていた。 「近寄るなと、主に言われなかったか?」 四つん這いになって垣根の間から這い出た途端の事で三人は思わず息を飲む。 「お前等のようなものが気安く入り込んでいい場所ではない。」 威圧的に言い置かれ、ウミはムウと頬を膨らませる。けれど、諍いを起こすために此処に来た訳でないと思い直して、努めて冷静に話しをしようとした。 「悪戯しに来た訳じゃないわ。私達はただ…「だた、何だ。どうせくだらない理由なのだろう、帰れ!」」 此方の話も聞かず、取り合おうともしないお面にウミの忍耐力は底をつく。 「この間迷惑掛けたみたいだたから、お礼を言いに来ただけよ! 何よ、偉そうに!頼まれたってもう来ないっての…帰るわよ、ヒカル、フウ。」 ウミの後ろで眉を歪めていたヒカルはフウの方を向き、小首を傾げる。フウは暫く考えていたが、すっとお面の前に歩み出た。 手にした布を差し出す。 「とても高価なものだろ伺いました。私の為にありがとうございましたと、アナタの主にお伝え下さい。 私には弁償することなど出来そうもなくて、本当は直接お逢いしてお詫びを申し上げたかったのですが、不作法で申し訳ありません。 よろしくお願い致します。」 従者の手に布を渡すと、フウは深くお辞儀をした。丁寧なフウの態度には相手も無体な態度に出る事はない。 「用事は終わりましたわ。戻りましょう。ヒカルさん、ウミさん。」 「そんな事、気にするな。」 庭に背を向け、二人に微笑んだフウに声が掛けられる。驚いて振り返れば、翠の髪の少年が笑っていた。 「俺が好きでしたことだ、お前等が気にする事じゃない。」 にこっと微笑まれ、フウの頬は赤く染まった。 content/ next |