All You Need Is Love.[rayearth OVA] 〜prologue 「遅くまでお疲れ様です。」 「ああ?。」 居住区の扉の前で守備兵士に声を掛けられ、フェリオは顔を上げた。 あれこれと考え事をしながら廊下を歩いていたらしい。足は無意識のまま居住区に向かっていた事に驚いて回りを見回す。 習慣というのは侮れないものだと、フェリオは呟いた。 「お食事の方を用意させましょうか?精獣使い殿。」 「う〜んそうだな…。それより、堅苦しい呼び方はやめてくれと言ってるだろう?フェリオでいいよ。」 自分とそう歳も変わらないであろう兵士から尊敬語を言われても困るというのが彼の意見だ。 「しかし、フェリオ様」 「いや、様もいいから…。」 苦笑いをしながら返したフェリオの言葉に、兵士はますます眉を寄せる。 「貴方は、エメロード姫直属の精獣使いなのですよ。それもセフィーロで唯一魔神を操れる方、です。我々 一般兵と肩を並べてというわけにはいきません。」 本人は下っ端と称しているが、フェリオの地位と責任はけっして低いものではない。ただ、城から動けない導師やエメロード姫の代わりに、現場に出向く事が多いのは事実。 彼はそれを称して下っ端と言っているだ。今日も、エメロード姫の勅命を受けて諸問題に当たってきている。 「…お前まで、クレフみたいな事を言うんだな…。」 自覚が足らないとよく小言を口にする導師の姿と目の前の兵士が重なった。フェリオはハアと溜息をつく。 「私達は、貴方を尊敬しております。」 しかし、兵士はキッパリとこう返した。 「どんな困難にも立ち向かう姿勢は、私にはとても真似は出来ません。復興に際した尽力にも、感謝の言葉もないほどです。」 フェリオは目を丸くして聞いていたが、クスリと笑った。 「それを強さと言うのなら…その強さは、俺も人から教わったんだよ。運命に逆らう力を持った大切な人からね。…ああもう、偉そうに喋ったらお腹すいたよ。何か用意してもらっていいかな。」 「はい。」 満面の笑顔で走り去る兵士を見送ってから、フェリオは廊下の壁に背中を預けた。 彼女の話をしてしまったからか、また会いたい気持ちが抑えられなくなる。耳に手をやり、彼女からもらったリングの感触を確かめた。 前触れもなく、自分の回りだけ空気が変質した感覚に、フェリオはハッと顔を上げた。 「な…。」 対処する間もなく圧迫感は強くなり、鳩尾を左手で抑える。込み上げてくるものがあって口を押さえた。 体を支えきれずに膝をつく。今にも落ちようとしている瞼を上げると獣の足が自分の視線に入って来た。 黒い狼の姿を持つ精獣。 額に埋め込まれた宝球が鈍い光を放っている。フェリオはそれに見覚えがあった。異世界でランティスが力を失った時に共に消えた精獣。 「お…前?」 思わす伸ばしたフェリオの手に頭をすり寄せる。黒い瞳が彼を捉え、こう促した。 『契約を…。』 そして、新たな物語は始まりを告げる。 content |