(パラレルです。我ながら凄まじい捏造なので注意です。)

優しい世界と冷たいヒト


 予想の範囲とはいいつつも、一定の場所から外へ出ようとしても気付ばもとに戻っていた。目の前に見える駅のホームに、フェリオはただ溜息をついた。
 遅れて到着したアスコットは、肩で息をしながら大きく身体を前に倒す。
「此処も、だめ…だったの…?」
 ゼイハアと荒い息の合間の科白に、フェリオは苦笑する。
「ああ、出れないみたいだ。」
「もう、こんなに遅いと心配されちゃうよ…。」
 アスコットはそう呟くと、鞄から携帯を取り出した。
 成績が上がって親に買って貰ったと自慢のiphoneだったが、どうせ繋がらないんだろうと踏んだフェリオの予想は裏切られ「あ、ママ。」と呼び掛けたのには、ギョッとする。
「おい、繋がるのか!?」
 少しだけ携帯から顔を離し、アスコットは頷いた。
「アンテナ三本立ってる。」
「マジかよ…!?」
 慌てて姉の番号をコールしたフェリオの携帯も、3コールを待たずに繋がる。
『フェリオ、どうかした?』
 普段と変わらない姉の声が酷く懐かしく感じた。この異常事態で相当に自分もまいっているのだと感じる。
「う、うん、ちょっと遅くなりそうで…エメロードは何処にいる?もう家?」
『私もまだ会社よ。ちょっと残業になっちゃったけど、もう帰ろうと思ってたとこ、あのね…。』
 何か続けようとした姉の声は、ザザッという音でかき消された。見れば、アスコットも同じようで困惑した表情を向けている。

「携帯…か、そんなもの思いもつかなかったな。」

 不機嫌そうな、聞き慣れない声が響く。
「まぁ、クレフは年寄りだから仕方ないわね。」
 しかし、続いた声は、二人のよく知る声だった。あっとアスコットが声を上げる。
 
「海…!!」
 
 フェリオとアスコットに向かい、ひらひらっと手を振る女の子は、同級生の海だった。腰まである蒼い髪はストレートで、強気な瞳が印象的な典型的美人タイプ。おまけに面倒味がいいのから、クラスの男子は大半彼女に傾倒している。
 勿論アスコットも例外ではなく、引っ込み思案なところのある彼を海は放っておけないらしく何かと世話を焼く。それが、恋ではなく、彼女の優しさであることを自覚しているアスコットは片思い真っ最中だった。
 但し、フェリオはその大半には含まれていない。だから、彼女の服装と纏う空気の異常さが最初に目に付くいた。
 さっきランティスを狙った少女と同じ色、デザインの服。2娘1ファッションというものらしいが、海もその法則に従ってブーツの色だけは青で別の色。デザインもヒールが高めで細身と光と呼ばれていた少女と少し違っていた。 
 しかし、横に立つ男の異常さは、彼女の比ではない。
 右手に持っている人間の頭ほどある飾りのついた杖を持ち、頭からすっぽりと被った白い衣装は地面に垂れていた。額には女性が結婚式につけるティアラのようなものをつけているが、先程の声から男だと判断出来たが、それでも顔立ちは海に劣らぬほどの美人だ。

「海、何してるの?」
 咲き誇る花に魅せられて、アスコットが海に近付く。密に誘われる虫のような状態。街灯の下、ニコリと海が微笑のが見えた。
 花は、花でも…すっと海の右手がもう片方の手を滑らす仕草を見てとって、フェリオは動いた。
 同じように海がアスコットに向かって走る。
「馬鹿っ、ここまでの成り行きを考えてみろっ!」
 フェリオは、叫びながら強くアスコットの背中を押す。案の定、彼が立っていた場所に、三階までとどく、大きな水柱が立った。まま突っ立っていたのなら、水圧で押し潰されていたはずだ。
「え、ええええ〜〜〜!?」
「やだ、残念。」
 クスリと悪戯めいて笑う海は、やっている事を除けば普段の彼女と変わりはない。ひらりと身を翻して、再びふたりから距離をとった。
「海、どうしちゃったの!?」
「だから、お前はいい加減目を覚ませ!!!!あれは、海なんかじゃ…「海だよ!」」
 アスコットはきっぱりと否定する。フェリオが面食らうほどの迫力だったが、その分頭に血が上る。 「何言ってんだ、お前は!」
「あれは海だよ、僕にはわかるんだ!」
 再度の否定に、流石のフェリオも口を噤む。
  「だって、海だよ、海なんだよ。僕にどうしろって言うんだよ!!」
 そう叫ぶアスコットに、勝手にしろとは言えなかった。其処にいるのは、同級生の女の子で、仕草も声も全く同じ。淡い恋心を抱いているアスコットが何も出来ないのはわかった事だ。
「お馬鹿さんだけど、可愛いわ。」
 此方の葛藤など意に介さぬ様子で、海が告げる。
「海、そうからかうものではないぞ。弱いとわかっていても手を抜くものではない。」
「はぁい。」
 男の言葉に、海は肩を竦めた。そして、アスコットに向かってねぇと話かけた。
「さっきの水柱なんだと思う?」
「え、なんなの?」
 警戒するフェリオに対して、アスコットは素直に首を傾げる。それが可笑しいと海は哂う。
「あのね、魔法なのよ。私、魔法が使えるの、凄いでしょ?」
「うん…凄いね。」
   返事も実に素直で、フェリオは隣で頭を抱えそうになる。両腕は背後に組み、ステップを踏むような足取りを男は笑顔で見つめている。それだけで、フェリオの警戒心は増す。
「馬鹿ね、貴方もつかえるっていうのに…!」
 スッと上がった右手から、孤を描いて飛沫が飛ぶ。
「水の…竜…!!」
 涼やかな彼女の声と共に、それは一直線にフェリオに向けられた。逃げる間もなく空間から生まれた水が硬度を伴って制服を切り刻んだ。
「フェリオ…!!!!」
 水圧にもおされて、フェリオの身体は道路に転がる。決定的な傷は負わなかったものの、剥き出しの肌から血が滲んだ。
「…っ、アスコット…。」  顔を上げれば、アスコットは呆然と海を見つめている。目を見開き、蒼白な友人の様子はフェリオにとっても辛いものだったが、どうしてやることも出来ない。
「海…!!」
 クレフと呼ばれた男の鋭い声は、遊ぶなということだろう。哂っていた海の顔が一瞬にして引き締まる。振り上げられた手が再びフェリオに向けられる。万事休す、思わず目を閉じたフェリオは雷鳴に、顔を上げた。
 夕焼けを見せ闇に落ちた空が鉛色に覆われていた。空を渡る数本の光が轟く音を伴う。
「きゃ…っ!!」
 周囲に落ちた雷に、海が悲鳴を上げて身体を竦めた。「何するのよ!」
 海が睨みつけるのは、アスコットの姿。高く掲げた右手を中心に、稲妻が走っていた。握り締めている左手の拳につけられた石が輝いていた。
「アス、コット…。」
「海の事、凄く大事だけど、友達を傷つけるのは赦さない!」
 そう告げて、ギュッと唇を引き締める。
「やる気になったって訳ね?」
 サラリと髪を掬い上げ、海はにこりと微笑んだ。
「クレフ、フェリオをお願い。」
 (よかろう)そう頷いて、杖を大きく振り上げる。ピタリと先を向けられ、フェリオは道路に膝を立て、怪我を負った腕を庇う。

「お待ちください。その方は私の獲物ですわ。」

 澄んだ女の声が響く。姿はまだない。けれど、フェリオは確信する。
 ランティスも、アスコットも、彼らが特別だと思う女が敵として現れた。ならば、初めて聞くこれは、きっと彼女の声なのだ。


  3児の母さまより 海ちゃんキター!!!vvv
3児の母さまより 可愛い、あっちゃんですvvv

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