(パラレルです。我ながら凄まじい捏造なので注意です。)

優しい世界と冷たいヒト


「始まったな。」
 ぼそりと呟き、ランティスは坂道を降り始めた。
「何か知ってるのか?」
「ゲームだとアイツが言っていた。」
「ゲーム?」
 後ろからアスコットが聞けば、ランティスはただ頷く。
 下るにつれ間近に見えてくる建物に変化はない。窓の明かりも普通につき、ただこの時間帯にしては人影が薄い。住宅地の真ん中を通り、駅へと向かうこの道は、普段なら会社帰りや学校帰りの人間でそれなりに通行人がいる。
 それが、犯罪防止とやらで変えられた青い街灯の下、歩いているのは三人だけだ。どうにも薄ら寒く感じて、フェリオは周囲に視線を走らせる。
「ゲームって何のことだ?」
「だから、単なるゲームですよ。」
 もう一度問いかけたフェリオの疑問に答えたのは別の人間だった。銀髪の青年が彼らと同じ制服を着て道路の真ん中に立っていた。ランティスよりも僅かに背は及ばないが、すらりと長身の青年はかなり端正な容姿だ。それがにっこりと笑っている様は、絵になる。
 けれど、彼を除く三人は三者三様ではあったが酷く嫌な表情になった。
「イーグル部長…?」
「はい。」
 物腰柔らかで、柔和な笑み。普段と変わらない様子を見せつつも、彼の醸し出す雰囲気は背筋を震わせるものがあった。おまけに、いままで人影などなかったのに、どこから現れたというのだろうか。
「…具体的、に答えて貰えないか?」
 ゴクリと緊張に喉がなった。想像を超えた答えが返る気がして、その期待は裏切られる事なく現実になる。

「よくある設定です。日が昇るまで生き残っていれば貴方等の勝ち、全員死んでしまうと負け、簡単でしょ?」

 空いた口が塞がらなかった。色々とツッコミたい箇所は満載だったが、必要最低限にどうしても納得できない事がある。だいたい、どうして、その(ゲーム)とやらに自分が加わらなければならないのだ。
 浮かんだ疑問を吐き出せば、俺が選んだと隣の大男が答えて二度吃驚。
「ええええ〜〜どうして僕も!?」
 叫んだのはアスコットだったが、フェリオにも十分に異議がある。
「ランティスは友人が少ないですから。」
 にっこりと嗤ったイーグルには、フェリオが吠えた。
「ふざけるな!他にもいるだろう!…そうだよ、ジェオやザズだってランティスの…!まさか…。」
「そう、彼等は僕の関係者ですから、参加資格がありません。」
「フェリオ〜〜」  アスコットは既に半べそ。自分だって泣きたいとフェリオは目の前の無責任な諸先輩を睨みつけた。
「そんな怖い顔をすると、可愛い顔が台無しですよ。」
「やかましい…!!やってられるか、俺は降りるぞ!!!」
 この展開ではどんなに訴えても認められないかと思いきや、イーグルはいいですよと嗤った。
「そのかわり、貴方の替わりに死んでもいい人間を連れてきてください。ゲームは始まってますが、駒を取り替えるのは可能です。」
「なん…だと…?」
 つまり、自分の為に贄を差し出せという事だ。親しい友人の顔を思い浮かべて、フェリオは首を横に振るしかなかった。それはアスコットも同じ様子で、青ざめた顔でフェリオを見る。
「…そんなの、僕出来ないよ…。」
「俺もだ…。」
 畜生と罵ると、イーグルがニコリと嗤った。同じ理由で、ランティスも受け入れざる得なかったのだと納得する。用意周到、腹が立つが諦めるしかない。
「ありがとうございます。」
   感謝の言葉と共に、イーグルは片手を持ち上げた。くいと一瞬後ろに沿ったかと思えば、三人の胸に当たって道路に落ちるものがある。恐る恐るといった表情で持ち上げたアスコットは、片手分だけの手袋に首を傾げた。レザーに似た感触の飾り気無い黒い手袋は、先が切れていて指先は露出するようになっていた。
「お前とやるのか?」
 決闘と勘違いをしているのか、ランティスはイーグル問う。クスクスと可笑しそうに笑い、イーグルは首を横に降った。
「それは貴方がたを守ってくれる武器になるはずです。…ああ、フェリオ、利き手の反対に填めてください。」
 右手に填めようとしたフェリオは、ふんと鼻を鳴らして手を変える。それを見て、残りの二人もそれに習った。
「ほら、填めたぞ。」  イーグルに手を翳した途端、手首に沿って締まり甲の部分には球体を半分に切って貼り付けたような石が出現する。そうなると、引き剥がそうとしても手に張り付いたように取れなくなる。
「どうやって使うんだ?」
「相手がくれば自然に…ああ、来てくれたようですよ。」
 ランティスを挟んで、イーグルと反対側の家屋。屋根の上に人影があった。

「見つけた。」

 クスクスッと少女は嗤う。
 幼い顔立ちは、小学生のようでもあったが、鋭い光を隠そうともしない緋石はそれを否定していた。
 成長の余地を十二分に感じさせる細くて小さな姿態は、纏った黒い衣装でより華奢に見える。シャツは胸元だけを隠し袖を折った上着も短いから、可愛らしい臍が見え隠れしていた。
 膝上のスカートはひらと風に舞っていたけれど、その下には動き易さを考慮してか同色のスパッツを履いていた。踝丈のブーツだけ緋色で、彼女の瞳と髪と同じ。
 挑発的な言葉と態度でさえなければ、とても可愛らしい少女だ。

「光…」

 ボソリとランティスが呟いたのをフェリオは聞き逃さなかった。
「誰だよ、それ。」
「同じクラブに所属している…奴だ。」
 表情を変えるところを見ると、ランティスにとって特別な存在の少女に違いない。そんな女がいたことが、フェリオにとっては驚きだった。
「ランティスって強いんだよね、凄く。」
 歌うように呟き、スウと少女は左手を撫でる。その手には自分達がはめている手袋と同じものが装備されていて、きらと反射した光はそのまま彼女の手の中で剣の姿を取った。テレビの洋画に出てくるような西洋剣。短いグリップを彼女は両手で掴んだ。
 「私と闘って…ランティス!」
 トンと屋根から軽やかに飛び降りる。重力を無視した、CG合成かと思える身のこなし。けれど、これは現実なのだ。
 そして、ランティスは逃げるでもなく彼女と同じ仕草をする。右手に表れたのは、少女が持っていたものよりも太く大きな剣だった。
「彼女が俺の相手のようだ。お前達は行け!」
「行くって何処へ…!?」
「自分で考えろ。」
 無責任極まりない科白を吐いて、ランティスは剣を構える。
 キインと硬質な音が鳴り響き、圧されたランティスの身体がアスファルトの上を後ろにずれる。生まれてこの方聞いた事もない音に、フェリオもアスコットも震えが止まらない。反射的に踵を返し、ランティスを置き去りにしたままがむしゃらに走り出す。
 振り向くことさえ恐ろしかった。
「あれ、あれって本物の、じゃないの…?」
「知るかっ…!」
 銃刀法違反で捕まるぞという冷静な判断は出てこなかった。そう、決まっているとフェリオは思う。
 この世界に、もう警察など何処にも存在しないのだ。


  3児の母さまより 光ちゃん頂きましたvvv


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