(パラレルです。我ながら凄まじい捏造なので注意です。)

優しい世界と冷たいヒト


「光ったら、どうしてあんなムッツリが良いのかしらね。」
 心底呆れるわと言いたげな海は、同意を求めるように風を見る。しかし、クスクスッ笑う風は、ランティスではなく別の人物を眺めているようだった。
「海さん。それこそ、好きずき…ですわ。」
 視線の先は、フェリオではなかった。その隣で海を見上げるアスコットに向けられている。
「ほら、海さんに何か言いたそうにしていらっしゃいますわよ?」
 あら?そんな様子で振り向く海は、アスコットに向かいニコリと微笑む。
「どうかした?アスコット。」
 腕組みをして、スラリとした立ち姿を見せる海の姿もまた妖艶だった。長い髪が夜風に舞い、引き込まれそうな笑みがアスコットを誘う。
 彼女は確かに美人だったが、軽やかに笑う彼女は闊達に見えて、龍咲海という女の子がこんな表情を見せるのだという事実に、フェリオは改めて驚いた。
「う、海…。」
 コクリと喉が鳴ったのが聞こえた。頬は赤く染まっていたけれど、アスコットの表情は硬かった。普段なら大きく見開かれた栗色の瞳を伏せて、眉を寄せる。そうして、もう一度、海と呼び掛ける。
「海はどうしてこんな事をするの?僕がいつも迷惑を掛けているから?」
 伺うように首を傾げたアスコットに、海の表情は一変する。
 その顔に、アスコットは確信を持ったようだった。ごめんなさいと頭を下げ、それでも顔を上げて海を見つめた。
「普段、つい海に頼ってしまってよくない事はわかってるんだ。悪いところがあったら、僕直すから。」
 ああもう…海の整った唇が歪んだ。苛立ちを隠そうともせずに言葉を発する。
「アスコット、…私は貴方のお姉さんじゃないのよ!」
「思ってないよ。僕はただ…!」
「アナタがそんなだから、私、恋も出来ないわっ…。」
 吐き捨てる様に叫んで、海はクルリと背を向ける。大きく伸ばした手の間から、月を反射する刃が見えた。
「もう、うんざり。」
 
 振り返った寒々とした美貌に、アスコットの表情が曇った。

「海…。どうして、僕は…。」
 ただ呟くアスコットの言葉は、彼の心情と一致するのか、続かない。
 けれど友人が海に抱いている気持ちが、嫌悪でも屈辱でもなく、絶句に近い(戸惑い)であることがフェリオには良くわかった。

 自分もそうだったのだ。

 呼び出されて、見知らぬ(と言えば語弊がある同学年の女生徒だ)女の子に告白を受けた。意識したこともない相手からいきなり告白され、嬉しいという気持ちよりは、ただ驚いた。
 風の事が気になり出していた事実もあり、フェリオはその告白を受け入れなかったが、納得しなかった彼女は(好きな人がいるのか)とフェリオを問いただしたのだ。
 気になっていたが、好きかどうか確信は無かったフェリオに、『どうして』と彼女は詰め寄る。
 好きな人がいないのにどうして自分では駄目なのか、こんなにも好きなのに…と。それに対してフェリオは返す答えを持たなかった。

 思った事もなかった。考えた事もなかった。そんな事に対して、即座に返答など出来るはずもない。こんなにも好きだと言われても、戸惑い以外の感情は湧いてこない。迷惑だとすら、思った。

 彼女は本気で、本当に必死だった。ただそれだけなのだろう。沈黙したフェリオに、それ以上食い下がるような事も無かったのだから。
 けれど、
 風もそうなのではないかと浮かんだ思考が、フェリオを未だに、離す事がない。
 彼女もまた、自分の告白を戸惑いと驚愕で受け取るだけなのではないか?
 意識したことのない相手が、どれほどに自分の事を好きだと告げられても、手放しで喜べなかった己と同じように。

「違うよ!海!」
 想いに沈みそうになったフェリオの思考は、必死なアスコットの声で現実に引き戻される。
「僕の話も聞いて、海!」
「嫌〜や。もう、いいわよ、聞きたくない。」
 振り払う様に斬り捨てて、海は剣をアスコットに向けた。
「面倒、ね。」
 海に対当するかのように、光もゆっくりと剣をオーブから引き抜いた。
「私に本気になって、ランティス。」


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