(パラレルです。我ながら凄まじい捏造なので注意です。)

優しい世界と冷たいヒト


 少女の笑い声が闇にさざめく。
華やかさすら感じる声色のはずなのに、フェリオにとっては酷く耳障りだった。
「そんな事言っちゃ駄目よ、風。」
 唇を指先で撫で上げて、海が瞳を細くする。長い睫の間から覗く蒼い瞳は、温度を感じない。ただ冷たく校舎の残骸に立つ人物達を見下ろした。
「弱いんだから。」
「まぁ、海さんたら。」
 いけませんわと窘める仕草を装い、風は薄く笑う。
しかし、光と呼ばれた少女だけは俯いている。彼女がギュッと唇を噛みしめているのが見えたと思った途端、バッと顔を上げた。
 緋色の瞳を目一杯開き、声を張る。
「ランティスは弱くなんかない!!」
 彼女の激しさに、海と風が息を飲んだのがわかった。
「ランティスは強いんだ。同じクラブの中で、ランティスに勝った人なんて見たことがない…!」
 体の横で握りしめている拳が震えていた。
 フェリオは、横に立つ男の様子を伺う。此方は唇を一文字に伸ばして真っ直ぐな視線を光へ送っていた。
 ふたりは見つめ合い、そして光は拳を解いて胸元へと当てる。まま、ランティスに呼び掛ける
「なのに、どうしてなんだ…! どうして私と闘ってくれないんだ!!」
 ポロポロッと丸い瞳から涙が零れ落ちるのが見えれば、ランティスは顔を歪める。
「私が弱いからか…!」
 叫ぶ少女に、ランティスは首を横に振った。
「光。お前は誰よりも強い。」
「なら、どうして…!!!私が子供だって言うのか!!!」
 胸の中にある痛みを両手で抑え、理由を問い叫ぶ光の姿は、フェリオにある状況を思い出させた。
 
 制服は同じ学校のもの。
 顔を真っ赤にして、目尻に涙を溜めて声を張る少女の姿。栗色の髪が肩口で切りそろえられた、可愛らしい顔立ちの少女だった。

『なら、どうして…!』

 反射的に、風を見上げる。此方の思想など彼女は察する事なく、自分を見つめるフェリオに微笑んだ。
 緩く巻いた亜麻色の髪がふわりと闇に舞う。薄紅色の唇が孤を描き、睫に隠された翠色の瞳が輝く。
 散々な目に遭わされていても、彼女の微笑みは綺麗で魅力的だった。

「光…俺は…。」
 ランティスが眉間に皺を置いたまま、言い惑うのが聞こえた。
 常に自信満ち、迷う事なく己を貫く様に見えた男が、こんな辛そうな声を出すの事をフェリオは初めて知った。
「お前は、何故俺と闘う事を望む。」
「ランティスが強いから!」
 ランティスの迷いに比べて、光の応えは即答だった。
「私は強くなりたい! ランティスに追いつきたい! ランティスに認めて貰いたいんだ!」
 それは、こんな状況でさえなければ純粋だとさえ思える願いだった。


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