(パラレルです。我ながら凄まじい捏造なので注意です。)

優しい世界と冷たいヒト


 部屋全体が、恐らく建物が破裂音と共に大きく歪む。ミシミシと壁に亀裂が生じる軋みが絶え間なく響く。
 普通に日常生活を送っていれば、建物が崩壊する場面を見るなんて事は稀だ。映像だったら何度だって見たけれど、あくまでもフィクションだったりリアルじゃない。 だからわからない。わからないけれど、建物自体が崩壊するのに、時間が掛かるとは思えなかった。 
「っ…!、どうしても、アイツ等と闘わなければならないのか!?」 
 此処が崩壊すれば、再び対峙しなければならない。憤りはまま言葉になって、フェリオの口から飛び出した。どんな返答を望んでいたのか自分ですらわからなかったけれど、にこりと笑ったイーグルの台詞は目を剥くような代物だった。
 
「ええ、運命ですから。」

 ケロリと答えられて絶句したのは、フェリオだけではない。アスコットや、ランティスでさえ目を丸くして、イーグルを凝視する。
 皆の視線を集めて、彼のほえほえした笑みに代わりはない。
 イーグルは余程の事がない限り笑みを崩した事もないし、取り乱した所を見たことがなかった。負け試合での揺るがない部長の態度は頼もしいものだったけれど、今は困惑の感情しか浮かばない。
「あらかじめ決まっていたのは闘わなければならないという事実だけです。
 勝敗を決し、理を定める。それだけのもの。
 だから、誰だってよかったんですよ。偶々選ばれたのがアナタ達ですが、アナタ達でなければならない理由は最初からありません。」
「そんな…偶々で僕は海と闘わなくちゃいけないの…?」
 愕然とアスコットは呟く。
 か細く零れ落ちるアスコットの音を、フェリオは聞こえないふりをした。同情したところでどうなるものでもないし、偶々などと言われれば自分自身も確かに不快だ。
そんな事で気安く受け入れることが出来る事情をとっくに超えている。
 逃げ出せるものなら、さっさと家のベッドに潜り込んで(全て夢)で済ませてしまいたい位だ。
 でも…とイーグルは微笑んでいた唇を引き戻した。
「選ばれた以上闘う運命から逃れる事は出来ません。
 アナタ達が夜明けまでに出す勝敗の結果次第で、面白い未来が待っているらしいんですが、負けてしまえばそんな事も関係ないでしょ?
 決まってしまった運命は何人も覆せない。僕にも無理ですし、導師クレフにも無理ですね。」
「つまり…。」
「彼女達にも覆す事は不可。
 そうですね、今此処で大地震が起こってしまったら、誰にもどうすることも出来ない…理屈としたらそんな感じでしょうか?」
 (納得しました?)クスリとイーグルが笑う。
 災害だと思えば納得出来るような気がした。それも忘れた頃にやってくる奴ではなく、明らかな人災だ。
「俺達が闘うのが運命だと言うのなら、イーグル、お前の役割はなんだ?」
 ランティスが剣のある言い方でイーグルを睨む。
 肩を竦めてはみせたが、イーグルは悪びれる事もなく笑った。両手を大きく広げた芝居じみた動きで、深くお辞儀をする。
「運命を司るのは神。僕は神の使いに決まってるじゃないですか。」

 神というより悪魔だ。

 目配せをする三人は無言で頷いた。神に選ばれた戦士というよりも、悪魔に騙されて魂を毟り取られそうだと評した方が、どれほどに真実に近いだろうか。
 
「まあ、そんなこんなで雑談をしている間に、こんな事になってますけど?」

 コンコンと背にした壁を拳で叩いた途端、小さな亀裂は床から天井まで一瞬で広がり、落ちる。人工の灯りを失った室内は一瞬で闇に落ちた。
 それでも、崩壊を続ける破裂音は続く。
 三人が呼ぶ自分の名に勘弁してくれと思いつつ、フェリオは渋々言葉を発した。

「…守りの風…。」

 声の大きさや気迫と、魔法の力はさほど関係ないらしい。ヤル気の欠片もないフェリオの魔法だったが、取り巻いて風の防御が薄れた後の崩壊した校舎の中で、四人とも怪我ひとつしていない。
 瓦礫の中に佇めば、月明かりはやけに綺麗だ。

「声が小さいですねえ。もっとほら、お腹に力を込めて。」
 腹筋を上からぐいと力任せに圧され、胃液が出そうになったフェリオは、眉間に皺を寄せてイーグルを睨んだ。
「…部長…俺がTシャツ取った事、絶対根に持ってるだろ?」
「そんな事ありませんよ。」
 にっこり、ほえほえとイーグルは微笑む。
「お気に入りだと言ったのに、聞き止めてくれなかったなんて、ちっとも思ってませんよ。ええ、アナタは僕がどれだけ心が狭いと思っているんですか?」
 蚤の額だ!とフェリオが叫ぶよりも、アスコットが声を上げる方が早かった。
「…あそこ…!」
 示された場所は、保健室のある棟ではなく、教室や実習室のある学校の中で一番高い建物。その屋上に寄り添う様に佇む、少女の影が月明かりに黒い姿を浮かべている。
 すっと小柄な影が腕を高々と上げた。
「炎の矢…!!」
 灼熱の魔法が瓦礫を包むけれど、取り巻く風の防壁に煽られる事なく四散していく。地面に堕ちた火溜まりは、暫くくすぶった後に闇へと戻った。
 集中を解くように、フェリオが落としていた瞼を引き上げる。
「フェリオ。」
 あんなに嫌がってたのにと、アスコットが目を丸くする。それを横目で睨んで、フェリオはムッとした声を出した。
「不本意だが、やれる事はするさ。」
 途端に、クスクスッと嘲笑と声が聞こえた。
「隠れんぼはもうお仕舞いですか?」

ほたてのほさまより女の子組
ほたてのほさまより男の子組
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