私だけの…
ありきたりで1000hitを踏んで頂きました。
貴方は私の笑顔が綺麗だとおっしゃるけれど、私は貴方の笑顔の方がとても魅力的だと思います。
「フウ!!」
「フェリオ、お帰りになっていたのですか?」
客室へ向かっていた風は、南の方へ視察に出ていたはずのフェリオに呼び止められた。
「一刻も早くフウに会いたかったからな。さっさと切り上げてきた」
「フェリオ…でも大事なご公務を私などのために…」
「心配するな。今回の視察は実際俺がいかなくてもよかったんだ。勝手についていっただけだからな」
そう言ってフェリオは無邪気に笑った。それは風の大好きな笑顔。
そして二人は見つめあい、次第に世界を作っていく。
それに耐え切れなくなった人物が。
「ちょ〜っと!私たちがいること忘れてない?」
海だ。呆れたように手で額をおさえ、でも顔は笑みを含んでいる。
「ああ、すまない。久しぶりだな、ヒカル、ウミ」
本当にそこで初めて気付いたらしく、フェリオは苦笑いで光と海に挨拶をした。
「まったく。風のことしか見えてないんだから」
この海の発言だけでも風を真っ赤にするに十分だったが、さらに光の一言。
「フェリオは風ちゃんのことが大好きなんだね!」
「ところで、その方は?」
風はフェリオの後ろに所在なさげに立っている少女を見た。
「ああ、俺の幼なじみだ」
「セラです。はじめまして」
セラと名乗った少女はフェリオの隣に出てお辞儀をした。
「私は鳳凰寺風ですわ。よろしくお願いします」
「私、獅堂光!」
「龍崎海よ。よろしくね」
始めはそうでもなかった。
ただなんとなく、胸がもやもやしていたけれど、それが何故なのかはわからない。
そう。あの場面を見るまでは。
それは風が城内を散歩している時だった。
緩やかなカーブを描いた長い廊下を歩き、たくさんの部屋を通り過ぎ、なんとなく足は中庭に向いていた。
たくさんの緑と美しい花があり、小さな池もある。とても落ち着く空間。風はこの場所が気に入っていた。
いつものように椅子に座ってゆっくりしようとおもったが、先客がいた。
それは鮮やかな緑色の髪を持った少年。
「フェリ…」
風は話し掛けようとしたが、躊躇った。フェリオの隣にセラが座っており、談笑しているからだ。
普段の風ならそんなこと気にせずにいられるだろう。
フェリオの周りにはいつも女中がいて、いちいち気にしていたら身がもたない。
しかし今回は違う。
隣にいるのは彼を幼い頃からよく知っている女の子。
自分よりも長い間彼の傍にいて、自分より多く彼のことを知っていて、自分より多く彼の笑顔を見てきて…
「フウ!どうした?そんな所につったって」
自分を呼ぶ声に風はハッと我に返った。
いつのまにか目の前まで来ていた彼は、風の大好きな、しかし大嫌いな笑顔。
ねえ、あの娘に見せたのと同じ笑顔を私に向けないで…
あの娘にそんな素敵な笑顔を見せたと知っただけで、私は苦しくて…
気付くと風は走っていて、元来た道を戻っていた。
胸が痛い。
頭が痛い。
目が熱い。
喉が熱い。
彼女が憎い。
…彼が憎い。
何で?
…わかりきったこと。
嫉妬だ。
彼の隣で笑っている彼女に嫉妬しているのだ。
自分はなんて醜いんだろう。
彼女を憎いと感じてしまう自分が憎い。
彼を憎いと感じてしまう自分が憎い。
彼の笑顔は自分にだけ向いていてほしいなんて、ただの我儘。
実際に無理な話。
それでも、彼の素敵な笑顔を自分が独占したい…
風は足を止め、俯き、呟く。
「こんな小さなことで嫉妬なんて…みっともないですわ」
「そうか?俺は嬉しいけどな」
「……?…フェリオ!?」
後ろから聞き慣れた声。それはまぎれもなく愛しい彼のもの。
振り向くと悪戯っぽい、でも満足そうな彼の笑顔が待っていた。
「小さなことで妬いてしまうほど俺のことを想ってくれてるんだろう?」
「〜〜〜っ!」
「セラのことなら気にするな。ただの幼なじみだ。妬いてくれるのは嬉しいけど、誤解はされたくないからな」
フェリオは風を優しく抱き締める。
正直彼女が嫉妬するなんて思わなかった。自分を想ってくれているのか、いつも不安だった。
でも心配なかったな。
彼女はこんな些細なことで妬くくらい自分を愛してくれてたんだ。
これは自惚れなんかじゃなくて、事実。
「…フェリオ」
「ん?」
「私、あなたの笑顔が大好きですわ」
めったに聞けない嬉しい言葉。可愛い彼女。意地悪したくなる自分。
「…笑顔だけ?」
意地悪されているのはわかっている。少々癪だが、せっかくの機会。素直になろう。
風はフェリオの背中に手を添えた。そしてぎゅっと抱き締め、彼に聞こえるか聞こえないかの声で言った。
「あなたの全てが大好きです」
「あ!いたいた。風さん!フェリオ!」
「セラ」
しばらくたってセラが追い付いた。「二人とも足早いわね〜」などと笑いながら駆け寄る。
「風さん、私とフェリオのこと誤解したんでしょ」
「…はい、すみません」
「あ〜、気にしないで。それに私彼氏いるから」
「え?」
「この城に勤めててね、今日だってフェリオなんかじゃなくて彼に会いに来たのよ」
「そうだったんですか」
セラは言うだけ言うと「そろそろ彼の所に行くね」と言って去っていった。
風は安堵の息をついた。いくらフェリオがなんでもないと言っても、セラの方は好きなのではないかと思っていたからだ。
「安心した?」
と、風の大好きな笑顔のフェリオ。
「はい!」
風も笑顔で返した。
あなたの笑顔を独占はできませんが、今この場で見せてくださる笑顔は私だけのものですのね
〜fin
1000hitの記念にありき様から頂きました。彼女のサイト『ありきたり』は可愛いお話がいっぱいです。ありき様ありがとうございました。
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