目が合った、瞬間が、永遠



 軽く唇を重ねる。
 シャツにかかるフェリオの指先は、器用に釦を外していた。裾が外されていくにつれ、胸元は大きく開いていく。灯りに照らされる胸元の影は丸味を帯びて、ゆらりとゆらりと揺れた。
 唇が離れていき、フェリオが胸元を見つめているのがわかる。
 ジッと見つめる琥珀の瞳にランプの橙を重ねれば、それは情欲を煽る色に見えた。肌に指先が触れた途端、フウはブルリと大きく身体を震わせる。
「怖いか…?」
 尋ねられて、フウは柳眉を吊り上げた。
「貴方が怖いなんてあり得ませんわ。」
 そして、拗ねた表情のまま視線を彷徨わせる。蒸気した頬が一瞬熟れた実のごとく赤く染まった。
「…ただ、恥ずかしいんです。」
 胸元を隠すように、曲げた両腕を閉じようとしたフウの腕を押し留め、フェリオはクスリと笑う。
「小さい頃は一緒に湯浴みもしただろ。」
 そうして、一瞥したのちに顎に指先を当て首を傾げてう〜んと呻った。感心した様でうんうんと頷く。
「洗濯板みたいだった胸も随分発達したものだな。」
「フェリオ!」
 失礼ですわと、フウは振り上げた拳をポカリとフェリオの額に落とした。力の入らない拳を受け、フェリオは態とらしく顔を歪めて見せる。
「痛いなぁ、事実だろ?」
「随分失礼ですわよ、だいたい、貴方だって…!」
 チラリと視線だけ下に向け、フウは表情も変えずに続ける。
「豆粒のようでしたのに。」
「…っ、お前も随分と酷い事言うな〜萎えるぞ。」
 鼻の頭をポリと掻き、フェリオは大きく息を吐く。
「フェリオが悪いんですわ。それに、その、事実ですわよ。豆というか、ち…んっ…!」
 慌ててフウの口を自分の唇で塞いで続く単語を阻止すると、舌を絡めてしっとりと舐め上げて息が上がるまで開放しない。
 ままならない唇に言葉を乗せる。
「…卑怯です。」
 ペロリと舌を舐め上げて、フェリオは笑みを零す。荒い息遣いはフェリオは同じだ。
「卑怯で結構。お前は、俺が欲しいんじゃなかったのかな?」
 潤んだ翡翠がフェリオを睨み上げ、挑発するかのように口角を上げる。意地の悪い微笑みも、この状況に置いては酷く蠱惑的だ。
「…卑怯、ですわね。」
 胸元を覆っていた両腕を外し、フウはフェリオの後頭部を抱え込むようにして抱き寄せる。豊かな膨らみが柔らかくフェリオを包み、熱を帯びたフウの声が囁く。
「全て私にくださるのでしょう?」
 意図的に誘われれば、理性を飛ばすことなど容易かった。
 
 ◆ ◆ ◆

 隣に眠るフウの横顔を見つめる。
夜明けにはまだ遠い。森に包まれた闇は濃く陽光を阻んでいた。
 長い間、戒めていた心を開放し、フウを抱いた。
 それでも、己の全てをまかせる事は出来ないと告げたフウの言葉に奇妙な安堵を感じて、フェリオは思案するように瞬きをする。
 どうにも言葉にしづらい気持ちではあったが、強いて言うなら咲き誇る花々を全て摘むことなく、まま置いておけると知った安堵感に近い。
 それほどに、フウという女性の存在が自分の中で大きいのだろうと納得し、朝までもう一眠りしようとフウの横に潜り込む。
 規則正しい寝息がすぐ横から聞こえて、愛おしさだけは増す。それでも、明日になってフウとの関係に変化が生じた事を城の人間に知られれば、色々と騒ぎになることは必然だ。
 
「既成事実、か。」

 事実を事実として受け入れようと決意させた彼女の言葉を呟いて、フェリオは朝までの静寂を享受して、瞼を落とした。


〜Fin



お題配布:確かに恋だった


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