forest story(バレンタインパラレル) 自分の居場所 庭園を仲むつまじく歩く、フウ王女とイノーバ王子の姿が頻繁に見られるようになり、フウの滞在する部屋に、山の様な贈り物が届けられるようになる。 誰にどうと告げる事がなくても、イノーバ王子の心を射止めたご婦人が誰なのか察する。城内の空気はそれと変わっていった。 ランティスは変わらず苦虫を潰した様な顔をしていたし、フェリオもあの告白以降、揺れるような瞳も脆さも見せない。 ただ、淡々と時間が流れていく。 「この生地がやはり一番お似合いですわねぇ。」 女官が、フウの肩に数本掛けた反物から選び出す。輝くような白い糸が、少しづつ新緑へと変化していく色味。やはり、どうしても自分には緑という色が似合うらしい。そう思うと、フウは嬉しい様な、複雑な気持ちになる。 「少ない予算の中から新しく仕立てるんですもの、似合うものがいいですわね。」 しかし、フウは鏡に写る自分の姿に、にっこりと微笑んでみせた。鏡の中の少女もまた、笑みを崩す事はない。 「きっと、長く着れますわね。」 そういうと、女官達は口元を抑えて笑う。 「フウ王女。この国と婚姻関係を結ばれれば、そこまで倹約なさる必要はないのではありませんか?」 「いいえ。」 フウはことさらに微笑むと、いけませんわ。と女官を窘めた。 「大国でも、小国でも、私達を養っているのは国民の血税です。贅沢はほどほどでなければなりません。」 「ほどほど…ですか?」 「ええ、私も妙齢な女性ですので、そろそろ、新しいドレスが欲しいと思っておりました。」 「そう言えば、王女は三年前に仕立てたきりでしたねぇ。…そういう贅沢は許される…と仰いますか?」 「若い娘ならば…と。」 クスクスと笑うと、納得したように女官は仕立て分の布を計り始める。万が一デザインに合う程の布地がない場合に困らない為だ。しかし、どうやら、シンプルなドレスには、そこまで布地は必要ではないらしい。 「かなり、余ってしまいますね。どうしましょうか?」 曲がりなりにも王女が仕立てるドレス。同じようなものを他人が着るのはバツが悪い以上、業者に余り分を引き取って貰うわけにもいかない。けれど、無駄な布代を払う事は、フウが良しとしないだろう。 「そうですわね…。」 案の定、フウはフウは指を唇にあてて、小首を傾げた。そうして、何か思いついたように、翠の瞳を輝かせた。 「一体なんなんだ!!!」 両腕を、歴戦の女官達に抑えられこの場に連れてこられたフェリオは、フウの顔を見た途端、どうにも嫌な予感に顔を顰めた。 華のように、いやそれ以上に美しく微笑む自国の王女に、フェリオの脳裏には不吉な思いしか浮かんで来ない。 幼なじみの直感という代物だ。 「なぁ、フウ。俺は用事があってだなぁ…。」 解放してくれと暗に懇願するフェリオに、女官の一人が呟く。 「フェリオ殿は、城の裏手でじっとしていらっしゃいましたよ。…それって、暇なんじゃないですか?」 「なっ…。」 「まぁ、そうですの。調度良かったですわ。では、皆さんお願いします。」 後ろに控えている女官達が持つ、巻き尺が鞭のように見えてフェリオは声にならない悲鳴を喉に登らせた。 流石に、歴戦の彼女達にかかれば仕事は一瞬。上着を剥がれて、呆然としたフェリオを置いたまま、王女の部屋から退室していた。 「フウ…。」 「あら、涙目ですわね。」呑気な台詞に、がくりと頭が垂れる。 「ごめんなさい。少々調子に乗りましたわ。」 「お前…なぁ…。」 上げる気力もないらしいフェリオに、ドレスを摘み膝を折るとフウが耳元で囁く。 「私に伝えて下さった言葉、まるでプロポーズのようでした事…ご存じですか?」 勢い顔を上げたフェリオは目を剥いた。見る間に耳まで赤くなる。 「そんな、つもりじゃない。俺は…。」 「一生と、言って下さいました。」 「守ると言った…約束を違えるつもりは…な。」 言葉は、重なったフウの唇で奪われた。引き寄せようと、上がった腕をフェリオは必死で留める。 「私も一生貴方に守られると誓いますわ。」 これは、二人だけの誓いです。フウはそう付け加えた。 「正式に騎士になると言って下さった貴方の為に、服を作ります。今度の婚約の儀にどうぞ着ていらして。」 「…他の男との婚約にか…全くお前には負けるよ。」 我が侭は貴方にだけですからと、呟くフウをフェリオはやっと抱き締めた。 〜Fin
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