forest story(バレンタインパラレル) 距離 宛われていた控え室で、フウはメイドから晩餐会への招待状を受け取った。 イノーバ王子は、白いドレスがお好きですからお持ちしますね。と言われ、頷く。 まさか、本当に呼ばれるとは思いませんでしたわ。 各国に予め送られた招待状が、書類審査を通過したものとするのなら、先程の舞踏会は、面接試験。 それを通過し、いわるゆる本試験に臨むというところか。 そこで、フウはいささか意地の悪い思考を中断させた。 大鏡に写る自分が滅多に見る事の出来ない豪華な衣裳と装飾を施している。まるで自分ではないような気がしたのだ。フウはふるりと首を横に振る。 次の舞台のために衣裳を替えるべく纏っていた衣服を床に落とした。 王族に生まれたからには、政略結婚など当たり前。 許嫁すらいなかった我が身の方が不思議な程だ。もしも、イノーバ王子に見染められれば、大国との絆が強固になりいざとなれば、他国の金庫があてに出来る上に(これも一種の玉の輿)フォレスト王室も当分は安泰となる。 ここは、宝くじを当てるような心意気で頑張らねばなりませんわね。 小さく拳を握って決意の程を確認していると、ノックの音。先程のメイドかと思い、フウはどうぞと声を掛けた。 「フウ。もうすぐランティスが到着すると連絡が入ったんで交替してもいい…か…。」 躊躇い無く開けられた扉から、顔を出したフェリオは下着姿のフウを見て動きを止めた。フウが瞬きをしている間に、耳まで赤く染まっていく。 「す、す、すまない。覗くつもりじゃあ、その…、あの」 あまりの狼狽ぶりに、かえってフウの方が冷静になってしまう。横にあったローブで身体を覆い、努めてゆっくりと言葉を紡いだ。 「申し訳ありませんが、扉を閉めていただけませんか?廊下からも見えてしまいますわ。」 返事はなく。けれど、扉は勢いよく閉じられる。それを背にしたフェリオは居たたまれないように俯いていた。 「ありがとうございます。」 「…すまん。」 「いいえ、不用意に返事をしてしまった私が悪かったんです。お気になさらないで下さい。…それより、ランティスが間に合ったんですか?」 片手で覆いながら上げたフェリオの顔はやはり真っ赤だったが、ああと返事をする。そのまま、フウと視線を会わせる事なく話し始めた。 「国境を越えたと、伝令があったらしい。正規の騎士が間に合ってほっとしたよ。」 「いいえ、フェリオも充分に騎士らしかったですわ。先程のダンスが効いたようで、晩餐会への招待を頂きましたもの。」 フウの台詞にフェリオは、はっと顔を上げた。彼の琥珀が微かに揺れるのが見えて、フウの心にも細波が立つ。 「そうか、良かった…な。」 貴方はとても強い方だけれど、ふいを突かれると感情が見える事…わかっていらっしゃいますか? あんなに近くで、触れあっていた貴方がとても遠く見える。今だって、手と手を重ねる事など直ぐにでも出来るだろうに。 ふたりの距離は縮まる事はないのですね。 「それを伝えに来ただけだ、良い夜になるといいな。」 そんな無理矢理に笑わなくてもいいのに、フウはかける言葉を失い、切欠を捜した。 近くのテーブルに先程メイドが持ってきた招待状が目に止まる。ああ、まだ読んでもいなかったと思う。 たおやかなフウの指がそれに伸びるのをフェリオは黙って見つめた。 「これ、招待状ですわ。金の縁どり…豪華ですわね。…あら?」 小首を傾げたフウは、フェリオを見つめた。 「どうした?」 「貴方の分もあるようですよ、招待状。」 へとフェリオは目を丸くして、彼女の手を見つめた。 〜Fin
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