forest story 笑顔 「姫様大変です!」 初老の衛兵が、フウ王女の部屋へ駆け込んできた。 「どうしたのですか?」 執務室で仕事をしていたフウは、顔を上げて兵士に問い掛ける。 しかし、あまりに急いで走ってきたからか、兵士の上がった息はなかなか戻らない。 「大丈夫ですの?」 フウは立ち上がると兵士の横に跪き彼の背中をそっとさすった。 「姫様勿体ない…。」 感激で半泣きの兵士にフウはにっこり微笑んだ。姫君のお優しい笑顔に兵士はますます感動する。 「いいのです。それより何が大変なのですか?」 兵士が落ち着いてきた頃を見計らって、フウは再度問い掛けた。 「いや、それが姫、城の城壁が崩れました!!」 「まぁ!」 「これは、困りましたわね。」 フウ王女は、片手を顎に当てて眉を潜めた。 城の周りをぐるりと囲んでいる石の壁に穿たれた穴は人が充分に通れるほどの大きさを誇っている。放置しておくにも丁度隣国との国境線の上。しかし…。 「修繕するにも、予算がありませんわね…。」 「どうしましょう姫様…。」 心配顔の兵士にフウは笑顔を見せる。 「大丈夫。私がなんとか致しますわ。」 そうは言ったものの、今回に限り特別に良い考えも浮かばず、フウはその行く先を国王の部屋へと向けた。あまり政が上手いとはいえない彼女の父親は、娘がしっかりしているのを良いことに、半年程前から彼女に実務を明け渡し、悠々自適な隠居生活を送っている。 ドアをノックしようとした彼女の耳に父親の声が聞こえてきた。 「あ〜また負けた。」 クスクスという笑い声がして、しかし諭すように話し掛けている。 「もう終わりにしませんか?。」 「い…いや、もう1戦だけ…!」 フウは、その言葉と同時に勢いよく扉を開けた。 「父上!フェリオにも仕事があるんですからいい加減になさって下さい。」 見るとベッドの真ん中にこんもりとした固まりが出来ていて、その向かい合わせに苦笑いをしているフェリオとチェスの板。窓辺にはウインダムがとまっている。 「今日は朝早くからウインダムになにやら細工をなさっていると思っておりましたが、そういう事でしたのね。父上!」 フェリオは立ち上がると、両手を腰に当ててベッドを睨んでいる王女とそのベッドに埋まっている王様の間に入る。苦笑いはそのまま、それを取りなすようにまあまあとフウに話し掛けた。 「そう怒るなよ、フウ王女。」 「いいえ、今日という今日は勘弁致しかねます。一国の王がこのように布団に隠れていらっしゃるなど言語同断ですわよ!」 「そんなに怒っていたら、出るものも出られないだろう?もう俺は仕事に戻るから、それぐらいで勘弁してあげてくれ。」 困った顔のフェリオに、フウが攻撃の手を緩めようとした矢先、布団は被ったままで王様がフェリオに子泣き爺のように抱きついてきた。ぎょっとフェリオが後ろを向く。布団が頭にすりすりしている。 「やっぱりフェリオは優しいのぉ。あいつが亡くなった時に養子にしておけば良かった〜。いやいや、今からでも遅くは無い。森番などやめて城に来んか?。私は、お前を息子同然に思っておる。フウは申し分のない娘なんじゃが怒ると怖いからのぉ。」 王様それはヤバイです。とフェリオが思った刹那、綺麗なフウ王女の柳眉が逆立つ。 「誰の事で怒っているとお思いですか!こちらは城壁が壊れて頭が痛いと申しますのに!まったく、フェリオが甘やかすからいけないのですわ!」 とばっちりを受けたフェリオが目を白黒している間に、フウ王女は部屋を出ていってしまった。 「待てよ!フウ!」 そのまま、廊下を早足で歩いていたフウをフェリオが追ってきた。立ち止まらないフウの手首を掴むと無理やり足を止める。 「何か御用ですか?私は忙しいですが。」 不機嫌そのものな表情を向けられて、フェリオは困った顔になる。 「城壁が崩れたとか…言っていたが?」 「そうですわ。まるで人間がそのままぶつかったような大きさの穴が開いております。穴を埋めようにも、材料を買う予算も職人に頼むお金もありません。」 う〜んと唸ってフェリオが言う。「…国債でも売ったら?」 「払えない借金など出来ませんもの。」 そうかと唸ってからしばらく考えていたが、フェリオは今だに怒った表情のフウにこう言った。 「じゃあ、俺にまかせてみないか?」 「まぁ!」 フウの口から感嘆の声が漏れる。 崩れた石と、何処から拾ってきたのか木を組み合わせて上手く塞いである。 「俺の家も存外ボロいからな。何度も修繕しているうちに出来るようになった。」 「森番などおやめになって、職人になったらいかがですか?」 一瞬きょとんとした顔のフェリオは、いきなり笑い出す。 「何ですの?」 「いや、やっぱり親子なんだなと思ってさ。お前には職人になれって言われるし、国王には養子になれっていわれるし…俺は森番が気に入っているんだが?」 フウはクスリと笑って口元を押さえる。 「これは、失礼いたしましたわ。」 「そう、これは俺のただの特技だ。」 両手を腰に当てて、得意そうにウインクしてみせたフェリオに、フウは笑顔を見せた。 「でも、大変助かりましたわ。ありがとうございます。」 にっこりと笑うフウを見て、フェリオも笑う。 「やっぱり、お前は笑顔の方がいいな。」 「私も怒るのは嫌いです。」 二人は顔を見合わせて笑った。 〜Fin
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