ツバサother


 フェリオが、彼を迎える人々を掻き分けてエメロードの側に駆け寄ってくる。
「姉上!」
 エメロードは弾かれたように立ち上がると、傷だらけの弟を抱き締めた。気丈に見えた彼女の瞳には涙が浮かんでいる。
「よくやりましたね。フェリオ。」
「姉上もご無事で何よりです。」
 彼女の腕の中でフェリオも笑う。応えるように細い姉の身体を抱き締めた。
「貴方は私の誇りです。」
 エメロードはそう呟いた。そうして二人は動かない。
 サクラも笑顔で二人の姿を見つめていた。
「サクラ姫!」
「小狼君!」
 小狼とファイ、黒鋼の三人も人ごみに潰されながらサクラの側に走りこんでくる。
 顔を煤で真っ黒にして、しかし満面の笑顔を見せるサクラを見ると小狼は意識しないまま、その腕の中に抱き込んだ。
「無事で良かった。」
 小狼の腕に抱きしめられて、サクラは真っ赤になる。
「あ、あの小狼君…私真っ黒で汚いよ。」
 耳元でしたサクラの声ではっと我に返った小狼も真っ赤になって彼女から手を放した。
「すみません。あの…俺…。」
 赤くなって俯いたままの二人にファイが声を掛ける。
「はい、サクラちゃんの羽根。」
 ファイが横から差し出した羽根がフワリと彼女に吸いこまれていく。サクラの瞳がゆっくりと閉じられ、小狼の腕の中に倒れこんだ。黒鋼の懐からモコナがぴょんと飛び出すと、背中から羽根が広がっていく。
「もう行くんだね。」
 小狼の言葉に頷くようにモコナは次元転移に移っていく。

 そして、佇むフェリオの横に、亜麻色の髪の少女が走り寄っていく。上品な衣裳を身に纏っている彼女は、彼の想い人に違いない。斜めに見えた彼女の瞳は翡翠。サクラの瞳によく似ていた。
 ああ、だから…彼はあんなにもサクラを見つめていたんだ。
 小狼の脳裏に、ふいにフェリオの言葉が蘇った。

『譲れないものが俺にもある』

 勿論自分もだ。と小狼は改めて自分の腕の中にいるサクラを見つめた。羽根を得て眠っている彼女を離さないようにと抱きしめる時、決意は強くなる。
 柔らかな寝顔を誰も妨げないように。
 彼女の笑顔を誰も曇らせないように。

 フェリオの顔がふと上を向いた。彼の唇が動く。

『ガンバレ』

 大切な者を守り抜く為に。

 そして旅は続くのだから。


〜fin



あとがき  こんな恐ろしく長いものを捧げようとしていました。(気持ちはいまでも捧げモノですが、これは既に犯罪行為かも(汗))。
で も最初に書いた時よりはかなりカットしてあります。これでも!です。お陰様でファイと黒鋼の出番が無くなりました。(笑)

 一応、一話完結を推定して書き始めたんですが、なかなか難しいものですね。
 ところで彼が出てきたのは、偶然です。オリジナルキャラはあまり使いたくなかったので、彼女持ちで姉(妹でも可でした。)がいてまあ剣を使っても違和感の無い人物をCLAMP作品から探しましたら、彼だった…と。
封真で小鳥ちゃんで神威が彼女?とか、昴流で北都ちゃんで星史郎さんが彼女?なのも考えましたが…。それはちょっと…ねぇ。
(見たかったですか?)
 そして、意外と彼女持ちな人物がいない事にも気がつきました。
 あ、そうそう蘓芳くんも良かったのですが、姉妹がよくわからなかったのと、ちょっと歳下ですよね。他にも推奨がありましたら教えて下さい。
 ツバサはまだ設定の読めないところが多い作品なので書きたいものもまだ止めてあるような感じです。基本的に長い話は大好きですので、書いる分には楽しかったです。感想頂けると喜びます。

 さて、ここから先も戯れ言が続きます。読みたい方のみお願いしますね



 この話を書いたきっかけはですね、ツバサの小狼くんを見てるとひたすら切なかったから。
 今のままだと、もしもサクラ姫の残りの羽根を全部上げるから命を頂戴と言われたら彼は躊躇なく渡してしまうんじゃないかと。
 だって彼の目的は自分も幸せになることじゃなくて、サクラ姫を守る事。己の命を掛けているものは、その自分の命が他の人にとってどれだけ大事なものかわからない事が多いじゃないですか?そういうところで切ないな…と。
 彼には早く、姫と共に幸せになりたいと望んで欲しい…という姥ごごろです。
(書き始めはですよ。勿論。高尚な目的があったように見えたんですが、終わったらなくなっていた…何故だ。)
 だから、同じように守りたいものを持っていて、でもその望みを果たすべきか迷っている人物を登場させたかったんです。それが、彼になりました。
 設定的にも楽しかったです。ええ、このままこっちの話を書いていこうかと思ったくらい。風ちゃんの出番が無かったのでそういう話も書きたいなぁって…。書いたら堂々と乗せずにこっそり置いときます。(汗)
 仲良し姉弟が書けたのは嬉しかったかな?
「柱」制度がなかったら結構仲良く幸せに暮らしてたんだろうなぁとか思うので。
 妄想だらけになってしまいましたが、ここまで読んで頂いた方本当にありがとうございました。


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