絶対大丈夫だよ 淡い紅色の便箋。 それは彼女の名前の様に桜色。 小狼は自分に届けられた手紙を受け取ると、折れないように気を付けながらポケットにしまう。 自宅で行われているパーティの最中に届けられたそれを、今、読む気になれなくてそこへしまった。 彼女の手紙の内容を人目に触れさせる事に気恥ずかしさもあったし、大事な人の手紙はそもそも誰にも見せたくない。 こっそりと広間を抜け出すと、庭の椅子に腰を下ろす。 遠くから聞こえる音楽に耳をくすぐっられながら、彼女の手紙を取り出す。 封を切るとふわりと良い香り。 さくらの髪から香るものと同じだと気づいて、頬が熱くなるのを感じた。 便箋に綴られているのは、変わらない日々の出来事。 懐かしいクラスメイトとの日常。守護者達との生活。 しかし、書き綴られた文章の中で時折、違和感があることを小狼は感じた。 文章の合間、合間に少しだけ筆跡が変わっている。 彼女はここで書くのを止めた。『何か』を。 そして、暫く考えて日にちが変わる事もあったのだろうと感じさせた。 それは、不安な出来事だったのかもしれないし、下がってしまった成績の事とも推測が出来た。あまり考えたくはないが、誰が別の男に告白でもされたのかもしれない。 小狼は、顔を歪ませた。 こんな時、自分と彼女の間の距離を酷く感じる。 さくらの横に並び、彼女の不安をともに感じ、取り去ってやりたいと願う。しかし、その文面自体は何もなかったかのように、楽しい話を続けていた。 『絶対大丈夫だよ。』 彼女の口癖を唇に乗せてみる。 柔らかな笑顔が、淡い色の瞳が自分を見つめながらそう言った。あの時のままのさくらが脳裏に浮かぶ。 きっと、さくらもそう思いながらこれを書いたに違いない。 自分を心配させないようにと考えながら。 手紙には言葉にならないものが溢れている。 『私は平気。大丈夫。』 なんて強くて、可愛い。大好きな人。 大好きな小狼君へ。 そう締めくくられた手紙を再びポケットに閉まって立ち上がる。俺は必ず彼女の側へと戻るのだろう。それは運命さえも乗り越える、強い確信だった。 〜fin
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