恋のライバル


 辞書の間に一枚の写真。
 左には頬を染めた私。右に頭が傾いている。右には小狼君。私より随分距離をあけながら、真っ赤になって固まっている。腕も身体も真っ直ぐ。
 そして真ん中には雪兎さん。いつもの笑顔で笑っている。
 ああ、これはみんなで遊園地に行った時の写真。
 知世ちゃんのファインダーに二人で写ろうとした私に、小狼君はズルイなんて言ったんだ。じゃあ、一緒に写ろうって雪兎さんが言ってくれて三人で写した。
 私は隣に座っている横顔をそっと見る。真剣な顔で、鉛筆を走らせている。

 ねぇ、覚えてる?この頃私達は恋のライバルだったんだよ。
 雪兎さんの笑顔を自分に向けたくて私達随分頑張っていたよね。
 バレンタインもクリスマスも。
 いつからだったのかな。小狼君の目が私を見てくれるようになったのは。私の目は、いつから小狼君しか目に映らなくなったのかな。

 不思議でとても甘いものが胸に広がる。

 くすくすっと笑った私に小狼君は訝しい顔を向けた
「おいさくら、何やってんだ?。ここ調べたのか?。」
 ワークを広げたまま、困った顔でこっちを見ている。
「ごめんなさい。」
 私はペロッと舌を出す。小狼君は溜息をついた。
「でもね。見て見て、ほら三人で写ってるの。辞書の間に入ってた。」
「ああ、懐かしいなぁ。」
 フッと細められる目。優しい微笑み。私は頭を傾けて、小狼君の肩に頭を寄せる。
「おい。」
 焦った声がしたけど気にしない。
「ちょっとだけ…。」そう言ってみた。
 私達の距離はあの時よりもっと近くなって、ライバルなんかじゃなくなって。
 でも、あの頃から小狼君はずっと側にいてくれたんだ。それがとっても嬉しくて。つい言っちゃう。
「小狼君、大好き。」
 そうしたら、小狼君の顔は写真みたいに真っ赤になった。



〜fin



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