a ghost story


  最初に反応をしたのは、小狼だった。両手でケルベロスをひっつかむと胸元に引き寄せる。
『なにすんじゃ小僧!』という叫び声をさくらが両手で塞いだ。
「ぬいぐるみさんが飛ぶわけないでしょう?」
 諭すような母親の言葉に、子供がぶんぶんと頭を振る。
「あのタヌキのぬいぐるみさんが空飛んでたもん!!」
 タヌキ!?
 ケルベロスの額に怒りマークが増殖するのを小狼とさくらが苦笑いをしながら見つめた。しかし、そこで暴れ出す程、ケルベロスも子供ではなく、取りあえず大人しく小狼の手の中に収まっていた。
 普通の人間はこう思うだろう。『そもそもタヌキは空など飛ばない』…と。
 ぬいぐるみを両手で持った小狼とさくらに、あら微笑ましいカップルね。という視線を送りながら母親は、タヌキを連発する子供の手を引いて通り過ぎて行った。
 その後ろ姿が小さくなるのを見送って、小狼とさくらは肩で大きな安堵の溜息を付く。
「放さんかい!あのガキどついたるわ!!!!」
 さくらから口を開放された封印の獣ケルベロスは物騒な言葉を吐きながら辺りを見回した。
「…結界が、なくなってしもうたようやな…。」
「結界!?」
 小狼の目にも、誰の人影もなかった公園に、さっきの親子連れのように通り過ぎていく者の姿がうつる。小狼は、ケルベロスの言葉に驚愕の表情を隠す事が出来なかった。
「うそ…。」
 さくらの呟きも隣で聞こえた。結界の気配は微塵も感じられなかった。さくらにすら感じさせないほどの魔力とは、一体どんなものだと言うのだろうか?
 じわりと背中の汗が冷えていく感覚に、小狼はぞっとするものを感じた。


〜To Be Continued



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