a ghost story


「大丈夫だ。幽霊じゃない。」
(それよりもタチの悪い代物であったとしてもな…。)
 しかし、小狼はその言葉を飲み込んだ。
 よけいな心配事など、さくらにさせるわけにはいかない。
 足手まといにならない為にも、万全のサポートが自分の役割だ。
 今はまだ、それしか出来ない。
 小狼の目に隣でさくらが頷くのが見えた。
「だったら、良い考えがあるの。」
 そう言うと、ギュッと両手で杖を握り直し、さくらカードを宙に投げる。
「ウインディー!」
 実体化したカードの魔法が、ユラリとさくらの前に現れ、彼女はこう命じた。
「かの者の造りし風の渦と、反対の向きに風を起こして!」
 スッと白い帯のような動線を残して、ウインディーは女の造った風の渦と反対の方向へ周り始める。
 その姿が、視覚で認識出来ない程のスピードになってきた頃には、互い風力はその力によって相殺され、二人を包んでいた風は消えていた。

「さくら!小僧!無事か!?」
 叫び声と共に、飛び込んできた小さな黄色い影はさくらの目の前で休停止し、その顔面に迫った。
「ケロちゃん!?」
「怪我はないかさくら!!」
 何故か関西弁のカードの守護者は、早口でまくしたててくる。顔面に唾が付きそうなその迫力に、さくらは押された。
「う、ううん、うん?」
「ううん!?怪我したんか!?」
「違うよ。ケロちゃん。大丈夫だよ。」
 さくらが慌てて首を横に振る。
 小狼は、その姿を通り越し、ファインダーを眺めながらこちらに手を振る知世の姿をとらえていた。
「…大道寺が連絡してくれたのか。」
「何があったんや!」
 ケルベロスの問い掛けにさくらは、えとえと…と言葉を探す。
「幽霊さんみたいな女の人がいてね…それで…。」
 なんと表現したらいいのかわからず、ほにゃ〜?となってしまうさくらと同じ方向に首を傾げたケルベロスは、困った顔をしてから、くるりと小狼の方を振り返った。
「小僧!」
 そして小狼を呼ぶ。小狼は、その視線を受けて服の埃を払い、剣を宝珠に仕舞いながらこう答えた。
「桁はずれの魔力を持った奴がいた。敵意は感じられなかったが…仕掛けてきた。」
「桁はずれの魔力?」
 ケルベロスの目が(画面に近寄らないとわからないのだが)訝しげに細められた。疑っているわけではないのだが、直ぐには信じられない。
 勿論小狼の顔も真剣そのもの。元々嘘をついて騙すような人物でないことは周知の上だ。
 小狼は、そして自分の感想を素直に伝えた。
「俺が感じたのは…さくらと同等もしくは、上の魔力だ。」
「なんやて!?」
 ケルベロスの小さな目が、驚愕の光を帯びた。暫くの間は、小狼を睨んでいたが、そのまま、あるかないかわからない鼻をヒクヒクと動かした。
「確かに強い魔力の痕跡が残っとる。」
「ケロちゃん、わかるの?」
「わかるものなにも…ん?何処かで感じた事のあるような…無いような…。」
 ケルベロスはそう言うと、短い両手(前足?)を組むと眉間に皺を寄せた。空中浮遊を続けながら考え込むぬいぐるみをさくらも小狼も、ファインダーをとおした知世も眺めていたが、ふいに聞こえて来た声で我に返った。
「ねーねーおかーさん。ぬいぐるみさんが飛んでる〜!!」


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