「最初にお前と宿屋に泊まった時は散々だったな…。」
 ふっと笑みを漏らすフェリオに、フウもそうですわねと同意した。
 二人の間には壁が据えられて、信用ないなぁとフェリオはむくれた。でも今は、フウとの間に壁はない。
 背中をぴたりと寄せ、体温を直に感じる位置にいるのに、彼女は警戒する様子すらない。
 嬉しくないと言えば嘘になる、でも男として見られていないような様子にも若干は傷つくのだ。
「…こういう信頼も嬉しいんだけど…。」
 フェリオは窓枠であった穴から満天星々を眺めていたフウの視界を塞ぐように顔を寄せた。
「フェリオ…さん?」
「フェリオでいい。」
 囁かれる言葉に、フウは頬を染める。
星の輝きよりも綺麗な翡翠だなんて、どこまで可笑しい思考だろうとフェリオは苦笑した。
「フェリオ。」
 フウはそう告げて、躊躇うように視線を逸らす。警戒されているのだろうかとも感じたフェリオに、フウは再び視線を戻すと微笑んだ。
「私、名前を呼び捨てにしてしまうのは初めての事ですわ。でも、貴方をそう呼べて嬉しいなんて…。」
 彼女の言葉を唇で塞いで、フェリオはフウの身体を抱き締めた。  


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