フウはにっこりと微笑んで、フェリオをアルシオーネの方へ押し出した。
「御用事がおありなのはフェリオのようですので、私は先に参らせて頂きますわね。」
「え、ええ!?」
 ギョッとしたフェリオに、アルシオーネは笑みを深める。
「馬鹿な事言わないで、私は勇者であるアナタにも用があるのよ。」
「それは残念ですが、私は用事はありません。」
 しかし、アルシオーネの言葉を取り合う事なく、フウはフェリオを置いてさっさと橋を歩き出した。
「ちょ、ちょっと、フウ、さん!?」
 戸惑うフェリオの横で、アルシオーネが眉を吊り上げ、フェリオを指さした。
「待ちなさい!小娘!!コイツはどうするのよ!?」
「なんでしょう、おばさん。」
 キラリと光るフウの目が本気だ。
 わなわなとアルシオーネの身体が震え出す。それを横目に、フェリオはこっそりとアルシオーネの視界から後ずさった。もはや彼女の目は、橋を行く小娘しか見てはいない。

「後悔させてあげるわ!!!!」

 冷静さを失ったアルシオーネが声も高らかに宣言し、氷の魔法でもって橋をたたき落とした頃には、フウは向こう岸に渡った後だった。
 ご機嫌ようと声を掛け、フウの姿は木陰に消えていく。
自分も渡れない橋に気付き、フェリオの姿を探すもそれすらも消えている。してやられた事に気付いたアルシオーネは、歯をギリリと噛んだ。

「覚えてらっっしゃい!!!」

 キイイとヒステリックな叫び声を上げる声に、フェリオは大きく溜息を付く。 
 最初の話しからすれば、フウは安全にわたれる場所を探して場所を移動しているだろうから、同じ行動を取ればいい。アルシオーネから目を反らしてもらった智慧も尊敬に値する…でも、どんな戦いよりも寿命が縮んだと、フェリオは心臓に掌を当てた。



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