「さあ、いらっしゃい。」

 呼び掛けてくる声に、フウは顔色を変える。
「どうしたんだ。」
 両手で頬を抑え込むフウの姿に、フェリオは眉を顰める。彼女の表情は、この旅で見ていたどんなものよりも青く、憔悴してみえた。
「まさか…どうして…。」
 フウはフェリオの言葉を聞いていなかったように、足早に階段を登っていく。
小さな声でまさかと呟き続けるフウの言葉は、階段のつきありに広がる空間に脚を踏み入れた途端、息を飲む音と共に消えた。
 城内の大広間と呼んでも差し支えない広い空間は、幾つもの柱で支えられていた。壁一面は蔦に似た植物が覆い、それ自体がまるで壁紙のような状態。
 天井から降ろされた天蓋が、部屋に設えられたベッドを覆っていた。その横に、女性が佇んでいる。
 フウに良く似た亜麻色の髪、翡翠の瞳。美しく微笑む表情は、フウの面差しと重なった。
 
「お、ねえ様?」

「ご機嫌よう、フウさん。」

 柔らかな笑みを浮かべているのは、姉のクウだった。勇者として家を出た時の姿のまま、何事もない様子で彼女はそこにいた。
 そして、後を追って来たフェリオもまた息を飲む。
「姉上!!!」
 ベッドに横たわっている肢体は、フェリオの姉の姿だったのだ。立ち竦み、動けないフウを見遣ってから、フェリオは姉の元へ駆け寄ろうとした。
 しかし、壁から鞭のように伸びた蔦は、簡単にフェリオの両手足を戒め、壁に貼り付けてしまう。

「やめろ!!!」

 フェリオの悲痛な叫びに、フウはハッと我に返った。
クウの手には短剣が握られていて、彼女はベッドで眠る女性に向けて大きく手を振り下ろす。
「お姉さま…!!!!」

   


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